長編
□覚醒1
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合宿や合同文化祭が終わり、全国大会が近くなる。
練習も気合いが入り、佳境に差し掛かった。
一番大事な時期だ、気合いを入れねば。
私は、無我の境地の技の吸収にあたり、ABCオープン男子ファイナルを観戦すべくアリーナスタジアムへ。
アリアと行く予定だったけれど、土壇場でキャンセルされた。
開催前にお茶しようと言う事だったけど、アリアがキャンセルで来ないのなら、まだふらつく時間がある。
「本屋で時間潰すか…」
確実に入れるのだから、時間ギリギリでも問題ない。
人混みに混ざって並ぶよりも、本を選んで時間を待った方がいいだろう。
「おや、静芭さん?」
知った声で振り向けば、柳生さん。
「こんにちは、柳生さん」
「こんにちは。お珍しいですね、お一人とは」
「友人から予定をキャンセルされたもので」
「それは残念でしたね」
彼はそう言って、一冊の本を手に取る。
SFものだ。
「静芭さんは、どの様な本がお好きですか?」
「歴史物中心に雑読してます。そうだ、オススメの本ありますか」
「あぁ、でしたらこのシリーズはオススメですよ」
指された本は、SF物。
映画化されて話題になった。
「なら、これを読む事にします。この作家さんの別の小説なら読んだ事はありますが、世界観が素晴らしいですね」
「そうなんですよ!SFと言うのは、世界観によって物語の良し悪しが左右されかねないですけど、この作家の物はしっかり構成された世界観が魅力的で…、」
そこまで言うと、柳生さんは、失礼と言いながら眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。
「私とした事が、熱くなってしまいました」
「いえ、興味深い感想でしたので是非続きをお聞かせ下さい」
途端に明るくなる柳生さんの表情。
「嬉しいですね。こう言った話を出来る相手に恵まれなかったもので」
「私で良ければ、是非お聞かせ下さい。本を選ぶ参考になりますので」
「はい! あぁ、そう言えば静芭さんはABCオープンは観戦なさらないのですか?」
「はい、観戦しますよ。少し時間がありましたので、本屋に寄ったのです」
「私と同じですね」
チケットを見せ合えば、席はそんなに離れていない。
「途中までご一緒しませんか?」
「あ、はい、是非」
答えれば柳生さんは柔らかく笑う。
そう言えば、あだ名は紳士だったか。
柔らかい物腰の彼に、ぴったりのあだ名だと思った。
カチンと来た。
観戦客の数人の言葉に、頭に血が上るのを感じる。
精市君の病状悪化しろ、だと?ふざけるな!
「ねぇ、貴方達、って海堂君!?」
一言言おうとしたが、それより早く海堂君が手を上げていた。
慌てて割って入り、直前で彼の拳を止める。