長編

□覚醒6
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手術が終わり、部屋で休む。

突然、部屋の移動を告げられた。

二人部屋になるらしい。

相部屋は誰かなんて、簡単に想像が付く。

兄さんだろう。

ベッドごと移動させられ、新しい部屋のネームにはやはり私と兄さんの名前が並んでいた。

肩は良かったみたいだが、今度は肘を痛めた。

検査を含めて、数日入院と言ったところか。

本を捲る事さえ出来ず、私は大人しく備え付けのテレビを見ていた。

大して面白い番組などなかったが、他にする事がない。

――コンコン

「どうぞ」

突然の来客。

私がテレビを消して立ち上がれば、兄さんと乾先輩を除く青学レギュラー陣。

「優勝おめでとう」

「もうニュースになっていたのかい?」

大石先輩が驚くが、私はクスリと笑った。

「まだですよ。でも、優勝するの分かってましたから」

「トーゼンでしょ」

越前君がニヤリと笑う。

「手塚はまだなのかい?表彰式が終わったら、直ぐ病院に行くと言ってたけど」

不二先輩が不思議そうに首を傾げた。

「多分、こちらに来る前に検査させられて、それがまだなんですよ」

母さんが来ていたから、先に検査させられているのだろう。

「兄さん、無茶ばかりしますから」

「…お前が言えた義理か」

海堂君が言えば、一斉に頷かれた。

みんなが私の右手に視線を投げる。

「私はいいんですよ」

「その理屈は可笑しいよ」

「可笑しくないです。河村先輩、兄さんと私では夢が違うんですよ」

プロを目指す兄さんと、兄さんを目指す私。

私の夢が兄さんに劣っているなどではなく、兄さんが夢を叶えられなくなったら、自然私も夢を無くすだろう。

「いやいや、どっちもどっちだと思うにゃ〜」

「うんうん、英二先輩の言う通りっスよ!
お前も部長も無茶し過ぎ。血筋かねぇ」

桃城君の言葉に、彼と海堂君以外が顔を引き釣らせた。

「母に似なくていい所まで似てるって良く言われる」

「「だろうな」」

声を重ねて言った同級生二人に、私は苦笑した。





兄さんが来る前に、乾先輩が来た。

顔は包帯で巻かれているが、眼鏡で直ぐに分かってしまう。

「やあ」

「優勝おめでとうございます」

「良く俺だと分かったね」

その眼鏡を見れば、簡単に分かる。

「怪我をされたんですか。…相手は赤也君?」

顔だけを怪我するなんて考えられない。

喧嘩ならテニスの脚力で逃げればいいし、背の高い乾先輩を殴るなんて、そうそう出来ない。

と、なればテニスだが、ここまで徹底的に攻撃的となると、以前越前君の膝を狙った彼しか思い付かない。

「よく分かったね」

「…。まぁ、予測は簡単に付きますよ」

ベッドから降りて、部屋に備え付けのパイプ椅子を左手で出す。

乾先輩が受け取り、そこに腰掛けた。

私より低い位置に来た乾先輩の顔。

痛ましい包帯に、そっと左手を当てた。

「っ、静芭、さん?」

「はい?」

乾先輩は、私の名前を呼んだきり沈黙した。

やはり痛むのだろうか。

そっと頬を撫でる。

「早く、良くなるといいですね」

「あ、あぁ、そうだね」

手を離して、向かい合う様にベッドに腰掛けた。

乾先輩が立ち上がり、私の前に立つ。

今度は乾先輩の手が、私の頬に触れた。

「静芭さん、」

「はい?」

「俺は…君が、」

――コンコン

あぁ兄さんが来た。

「どうぞ。あぁ、乾先輩、続きを」

「乾。何をしている」

「計算外だよ。色々と」

兄さんが不機嫌だ。

病院を抜け出した事を怒っているのだろうか。

「部屋に戻れ」

「…。仕方なさそうだね」

乾先輩が部屋から出ていけば、兄さんが私を見下ろした。

「嘘は言っていなかったが、抜け出したそうだな」

「…う」

やはり。

兄さんはため息を付くと、それ以上何も言わず頭を撫でてくれた。

驚いたけど、優しい手付きに安心する。
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