彼と私と。

□淡々、こんにちは
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ざくざく。

ざくざく。


目の前に広がる真っ白な世界に一つ一つ、私は足跡を足していく。
どこまでも広がる白の世界。
この世界に果てなどないのかもしれない。黙々と足を動かしながらぼんやりと考える。


ざくざく。

ざくざく。


白い地面に白い足が沈んでいく。
その度に無音の世界に音が響く。

はあ、

この世界にもう一つ音を。
吐きだした息も白い。


この世界と正反対の色を持つ黒い天使はいない。
ここ暫く姿を見ていないような気もする。
いや、もしかしたらついさっきまで一緒にいたかもしれない。
上手く頭が回らない。

薄汚れたフードで顔を隠した青年――イーノックは考える事をやめた。




ざくざく。

ざくざく。

ざくざく。

ざくざく。…さく。



「!」



突然の事だった。


これまで一つの音しか響かなかったこの世界に、イーノック以外の"音"が響く。
後ろを振り返る。

一人の少女がそこに立っていた。

白い雪が降る、白い世界の中

黒い髪を揺らし、黒い服を着て、


黒い瞳で真っ直ぐこちらを見据える少女。



――いつから?

敵か?味方か?
ヒトか?それとも堕天使の使い魔?

様々な疑問がイーノックの中に浮かび上がる。
どちらも視線を合わせたまま動かない。
こちらの動きを窺っているのか。

待てども彼女は動かない。
イーノックも動かない。

時間だけが流れていく。




…彼女が現れてからどれだけ経っただろう。


先に動いたのは、少女の方だった。



瞳を細めて、小さな顔を傾けて。



口元に笑み。





「こんにちは、イーノック」









(君に安らぎを)

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