Eternal Friends

□08)隠し事
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* * *(リリー視点)
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 気づくか気づかないか。
 それは、どれだけその人をみているかみていないかということだと思う。
 単純に。

 女子寮へと続くドアが閉まるのを見て、私は小さく息をはいた。

 消えたのはミオで、残っている私が待っているのは彼らだ。

 暖炉の火はまだよく赤と橙と白い光を撒き散らして、談話室を暖めている。

「……難しいのね」

 小さく呟いて、手元の本に目を落とす。
 数行追って、またため息をついて本を閉じた。
 本をテーブルに置いて、ソファーに肘をついて額に手をやる。

 別に熱があるという訳ではなく、眉間に皺が寄っていないか確認しただけだ。
 先日、それでシリウスにからかわれて嫌な気分だったから。

 独白の方はというと、別に読んでいた本が難しいというわけでなく、さきほど笑顔で談話室を去っていった少女のことだ。

 彼女のルームメイトによると、どうやら夜中に抜け出しているらしい。
 今のところ、他の誰にも見つかってはいないが、あの悪戯どもの例もある。
 いつ捕まるかわからないのに、そんなに抜け出す理由を聞き出さなければ、と思ったのだが。

――ちゃんと寝てるよ。

 屈託なく笑う笑顔を思い出して、また頭が痛くなった。
 嘘を言っているようには思えない。
 ミオの姉から多少の話は聞いていたけど、どうも違う事態が起きているようだ。
 梟便で連絡を取ろうかとも考えたが、ミオの話ではどうも梟が彼女に近寄らないという。
 おかしな話だが。

「……どうしたら良いのよ、もう……」

 談話室にはもうほとんど人は残っていない。
 とはいえ、わずかに残る人たちもそろそろ羊皮紙やらお菓子や玩具を片付けて、部屋へと引き上げていっている。
 そんな姿をまったく気に止めていないリリーは、自分を見つめている視線に気がつくわけがない。

 多少の口煩さを覗けば、彼女は美人なのだ。
 憂いを帯びた表情にサラリと髪が落ちかかる。
 それは暖炉の火に照らされて、エナメルの輝きを放つ。
 見る人が見れば、13歳とはいえ、彼女は立派に大人である。

 ミオが入学して以来、その面倒見の良さを加えてなお、寮内外に関らず人気を博している。

 表面的にはいつでも人懐こい笑顔のミオだが、どこかで人を拒絶しているような感がある。
 ずっと山奥で育ったせいと、なにか秘密があるらしいとは聞いているが、それがなんなのかまでは聞いてない。

 聞いていないからといって、放っておけるはずもなく。
 結果、頭痛の種は大きく育っていっているのだ。

 何度目かのため息は、寮入口の扉が開く音と乱雑な足音に掻き消される。

「リリー、まだ起きてたの?」
「夜更かしは肌に良くないぞ〜」
「そういえば、曲がり角って何歳……」

 この男どもは。
 人の気も知らないで、またどこかで悪戯でも仕掛けてきたのだろう。
 ピーターが続ける前に、わざと言葉を被せる。

「たまには良いでしょ」

 振り向くことさえせずに、怒りを滲ませた声で静かに答える。
 すると、ぴたりと騒がしさは収まり、静寂が談話室に戻った。

「っへ〜、珍しいこともあるな〜ジェーム、ズ……」
「どこか具合でも悪いのかい、リリー!」

 シリウスが何か言う前に、くしゃっとした夜色の髪に金の瞳を曇らせて、ジェームズが私の顔を覗きこむ。
 全面に心配だと言ってくれているのがわかって、少しホッとした。
 夜なのに、この人は太陽みたいだ。

「あなたたちが余計な悪戯をしていなければね」

 びくりとわかり易くピーターが身震いする。
 ほんと、わかりやすい。

 だいたいこの辺でいつもリーマスがフォローに入る。
 けど、今日は姿が見えない。
 変だ。

「一人足りないわね?
 まさか、置いてきたの?」
「え?」
「リーマスよ。
 リーマス・ルーピン。
 いつも一緒じゃないの」

 かすかに空気が凍りつく。
 彼らもまた、なにか秘密があるらしい。

「あ、僕、ココアいれてくるよ」

 小突かれて、ピーターが給湯室へ消える。
 ジェームズとシリウスは私と向かい合うように、椅子に座った。

「リーマスは病気の母親の見舞だよ」
「昨日、言ってたろ?
 もう、忘れた?」

 そうしていると、二人はとても双子のようで、少し困ってしまう。
 なにか隠しているか悪戯でもない限り、この表情はしないのだ。
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