Eternal Friends
□09)真夜中
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* * *(シリウス視点)
月が見えないようにリーマスは座っている。
俺とジェームズは窓辺に立ち、ピーターは昼間の授業で寝損ねたのか、壁に寄りかかってゆらゆら船を漕いでいる。
「一週間も経ってるのに来るか?」
「むこうは忘れてるかもね」
月の光にかすかに苛立っているリーマスの声に、ジェームズと肩を竦ませる。
月の光が嫌いな理由は知っているが、こいつほど月の似合うやつもいないのに。
それも、因果のせいだろうが。
「来るよ」
わずかに微笑みながら、ジェームズは呟く。
「根拠は?」
「絶対に、来るよ。
今夜は……そんな予感がしないかい?」
こちらに向ける瞳が悪戯の響きをもっていることに気づき、俺も苦笑をもらす。
「今の時間は?」
「ピーターが時計持ってきてたよね」
当のピーターは完全に眠りの世界に足を突っ込んでいる。
「おい、ピーター?」
「……くー……」
「ピーター!」
耳元で叫んでも起きる気配はない。
「シリウス、そうじゃない」
「ピーターを起すときはね」
リーマスと2人で目配せして、ジェームズがピーターの耳元に口を近づけて、何か囁く。
ほんの一瞬の後、ピーターが飛び上がるほどに跳ね起きる。
何かとんでもないことを言われたのだけはわかる。
なんのネタでささやいたんだか。
「ジェームズ……っ」
「目は覚めたろ?」
「そうだけどさ〜ぁ」
恨みがましく睨みつけてくるものの、その迫力のなさにリーマスと2人、笑いあう。
「もう今日はやめるか?」
「まだ時間きてないよ、そうだろ。
ピーター」
「……もう〜ちょっとかな」
「大丈夫、ピーター?」
リーマスの問いに、欠伸を噛み殺して答えが返ってくる。
それをまた皆で笑う。
だが、このまま待ってるのもそろそろ飽きてきた。
「シリウス?」
「ちょっとその辺歩いて来る」
そういったとたんに。
「君まで眠くなったの?」
「珍しい……徹夜なんて、いつものことだろ」
人聞きの悪いヤツラだ。
俺がいつも女と遊んでるとおもってやがるらしい。
――そりゃあ、半分は事実だけどな。
「あ、でも直に時間になるよ」
ピーターがそういうのと、足音を聞きつけるのは同時だった。
トタトタと軽い足音は廊下側からは聞こえなくて、何もない壁から近づいてくる。
灯りのない教室で(点けたら見つかるからな)
月明かりは不気味なオプションと化し(ある意味明るいが)
何もない壁から聞こえる足音って言ったら。
「おばけ〜!!」
「なにいってんだ。
ゴーストなんかいっぱいいるだろ」
逃げ出しそうだったピーターの襟を捕まえる。
「まだ見なれてなかったの、ピーター?」
「でも、ゴーストにしてはやけにリアルな足音だな」
足音に全員で聞き耳を立てる。
ふと振りかえった眼鏡の親友はこころなしか楽しそうに微笑んでいる。
近づいてくる足音は、軽く、階段を上がる音に似ている。
それは教室を一周してから急に消えた。
「……聞こえないね」
「聞こえなくなったな……?」
3人できょろきょろと辺りを見まわして首を傾げている中、ジェームズ1人だけが細く笑っている。
「ピーター秒読み、お願いできるかい?」
「あ、うん」
そういえば、音が止まってから彼が見つめているのはただの一点だけだ。
何もない戸棚の脇の壁を俺も見つめてみる。
……8……7……6……
「おい、ジェームズ」
「なんだい?」
……5……4……3……
「おまえ、誰だかわかったのか?」
俺の問いには短い笑い声しか返って来ない。
まだわからないのかと、目で笑われる。
……2……
「もうすぐ、わかるよ」
……1……
かたん、と壁に亀裂が入って。
闇に白い影が伸びる。
小さな子供の手だ。
それから、妙な服に俺は見覚えがある。
「はじめまして、のがいいかな。
侵入者さん?」
ピーターのゼロという声と、ジェームズの影に対する挨拶は重なった。
そして、そのゼロという声と共に、壁は元の姿を取りもどしている。
暗い闇の中だからわからないのか、それともこれは夢なのか。
とりあえず、その人物が俺たちの知らない通路を通ってきたということには違いない。
「遅刻だよ、ミオ」