Eternal Friends
□10)木の上の足
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* * *(ピーター視点)
木から足が生えていた。
といったら、ホラーみたいだけど、違うよ。
僕の位置からはその足が見えただけだったから。
淡く葉の色を変え始める一本の木。
それは風を受けて、光を万遍なく受けて、ゆっくりと時間を生きていた。
その一番下の枝に、一本の足が生えている。
人間の、それもすごく小さい人の細い足には辛うじて革靴がひっかかっているだけだ。
「ね、リーマス?」
隣を歩いていたリーマスのローブを軽く引いて、見るように促してみる。
リーマスが気がつくと同時に、前を歩いていたジェームズとシリウスも気がついたらしく、二人で木の下へ近寄る。
不信感と好奇心で僕も遅れてついてゆく。
「誰だー……ぁ!?」
風が強く吹いて、引っかかっていただけの靴は落下。
丁度真下にいたシリウスの頭に直撃した。
誰かが木の上にいるのはわかっているんだけど、その誰かは僕たちの声に気がついていないようだ。
「そこにいるの、誰?」
リーマスが呼びかけても。
「おい、人に靴ぶつけておいて……!!」
シリウスの怒声にも頓着せず、ジェームズが木を登り始める。
ジェームズはなんでも得意だ。
「ねぇ、君……」
登りながらなにか問いかけているジェームズにもなんの反応もない。
ぐるりと見回してもここには僕たち以外、他に誰もいない。
今日の授業は全部終ってるし、みんな寮へ帰ってるか大広間か談話室にでもいるんだろう。
僕らよりずっと離れたところにそれを見つけて、近寄ってみた。
――赤と金の僕らと同じ色のネクタイだ。
まだ新しく、あまり汚れていない。
「シリウス」
気の上からジェームズが何かを放り投げた。
それは、黒い大きいローブと、小さめのローブ。
「なんだ?」
「そこ、どけ」
ジェームズがいうのが聞こえて、いつのまにか杖をとりだしたリーマスが浮遊の呪文を唱える。
ふわりと、軽く地面に降りたジェームズは腕に何かを、誰かを抱えていた。
「え」
「お?」
「あ」
三人でなんとも間抜けな顔をしていたに違いない。
ジェームズは柔らかく微笑みながら、彼女の寝顔を見下ろしていた。
光が、あったように思うのは僕だけじゃなかったはずだ。
談話室で二度見た寝顔は、陽光の下だと、もっとあどけなく、もっと可愛い。
「どうしてあんなところでねれるかな、ミオは」
木に寄りかかって座るジェームズを囲むように立って、僕らはミオの寝顔に見惚れる。
子供の寝顔は可愛いものだけど、ミオのはどこか特別だった。
ふと、昨夜のことを思い出す。
「ミオが授業中寝てるって聞かないよね」
「まさか、こんなところで眠ってるとはな」
皆一様の思い出すのは昨夜のこと。
月の下でのあの姿と、今のこの姿ではあまりにギャップがありすぎる。
「あれって、本当にあったことだと思うか」
「こうしてると信じらんない……かな」
「シリウスが紅茶飲んでたしね」
「そこからして、夢だもんねぇぇぇ」
低く押し殺した声で咎められ、リーマスと二人で肩を竦めた。
こう言いながらも、僕らは昨夜遭ったことも全部本当だと知っている。
あの紅茶の味はなかなか忘れられそうもない。
月を映し、淡い桃色の花びらを浮かべて飲んだ、不思議な紅茶。
あの時のミオの存在そのものが、場を特別なものにしていた。
その時は彼女がずっと年上に見えた。
ジェームズは抱きかかえたまま、ミオの髪を弄びつつ微笑んでいる。
悪戯をするときとかのじゃなく、もっと優しい、父親みたいな笑いだ。
「ピーター、君、今何か妙なことを考えなかった?」
笑顔を向けられて、僕は顔を引き攣らせながら否定を返した。
「こんな妹いたらいいのにな」
柔らかく微笑んではいるけど、さっき考えたことは的確に伝わってしまっていたらしい。
「ミオが妹だったら、溺愛しそうだよな。
ジェームズ」
「今もたいして変わらないよ」
シリウスとリーマスも柔らかく笑っている。
たしかにこんな妹がいたら、たぶんお互いに紹介もしないだろう。
いつも一緒にいるだけあって、お互いの性格も好みも知っているつもりだ。
「……ぅぅ……」
少し苦しげにうめく声に、全員が息を止める。
ミオは眉をこれ以上ないくらいに寄せて、苦しげに辛そうにしている。