Eternal Friends

□15)悪夢
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* * *(セブルス視点)
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 生憎の曇り空。
 飛行術の時間に姿を消したとは聞いていたけど、それ以上の騒動は起こさずにミオは一日を過ごしているらしく、今日もホグワーツは平和だ。

 悪戯仕掛人が大きな動きをしていないということもあって、平和だ。
 ホッとするのは、大抵標的になっている管理人フィルチやスリザリン寮のセブルスであったが。

「こんなところで寝るな、ミオ」
「ん〜セブ〜……」

 図書室の奥へ本を探しに入ったところで見つけた、見慣れた少女の姿にかすかに唇の端が上がる。
 
 黒い本を手に座り込んだまま本棚に寄りかかり、無防備といえば無防備。
 だが、どこか固くなって久しい自分の顔の筋肉を動かされるのは、ミオの前でだけだと自覚している。

「風邪を引くぞ」
「うぬ……ぅ」

 少し揺すってみたがかすかに煩そうに眉間が寄るのを見て、諦める。
 こうなるとどこででも彼女は動かない。

 自分の着ていたローブを持って、肩が冷えないように掛けてやると、無意識に引き寄せる。
 動作が小動物らしくて、やはり小さく息を吐き出して笑った。

 高い書棚用の脚立を持ってきて、近くにそっと立てる。
 大きな音を立ててしまうとミオの眠りを妨げてしまいそうだったから。

 目的の数冊を持って降り、そのまま一番上に座ったまま、本を開いた。

「起きるまでだ」

 ミオが目を覚ましたら、いつものテーブルへ行こうと思う。
 こんなところで眠っているのが危険過ぎるほど、その寝顔はあどけなく、愛しすぎる。
 だからこそ、起こすのも躊躇われるのだ。

 寝ろといっても起きていて。
 起きろといえば、眠っている。
 まるで思い通りにならないミオは、自由気ままな我侭なネコのよう。
 だからこそ、構いたくもなるのかもしれない。

――馬鹿らしい。

 魔法薬学学会論集第24考と題された濃紺のカバーを開く。
 それほどの年月を経ていない羊皮紙は、たしかに文字を残し、心を躍らせる。
 数少ない私の興味の対象をそこに持ち、永遠に惹きつけてやまないもの。

 これさえあれば、食事などしなくとも何時間でも過ごせる。
 誰とも会わずとも、誰とも話さずとも、ただ己の探求心の赴くままにいられたら、それでいい。
 ずっとそう思ってきたのだがな。

「……なぞなぞは嫌いだよ……」

 ふと聞こえた声にその源を見下ろすと、少女はまだ瞳を閉じたままだ。
 どうやら寝言だったらしい。
 ローブがずり落ちかけている。
 だが、今読んでいる本も同じくらいには大切だ。

 どうしようかと考え込んでいると、急に身体中の神経が総毛だった。

「……に……したら……さない……」
「………………ミオ?」

 殺気立つミオの魔力で。
 己の身に持つ魔力が引き摺られる感覚に、他に持っていた数冊を取り落とす。
 普段ならすぐにでも拾い上げるところだが、そうすることも許さない強い、力で。
 指一本さえも動かせない。
 辛うじて動かせる目玉だけを動かし、ミオへ目を向ける。

「……ミオ、起きろ……っ」

 囁くだけの掠れた声では起こせない。

 どこにそれだけの殺気と魔力を持っていたのか。
 そんなことを聞いても無駄だ。
 相手は寝ぼけているだけ。
 眠っていてまだ解放も制御もされていない魔力。
 ただでさえ不安定なミオの力を裏付けるもの。

 ローブに手を伸ばして、強く、握り締める。



「起きろ……っ!!」




 弾かれるよりもゆっくりと、ただゆっくりとミオの闇色の瞳が現れる。
 そこに意志の光は見えず、ただ虚ろで、ただ空で。

「ミオ!」

 一度閉じて、また開かれる。
 そして、ようやく殺気が払拭される。

「あれ、セブルス……?」
「いったい何の夢を見た?」

 もうそこにあるのはいつものミオの強い光の宿る瞳だ。

 脚立を降りて、本を拾い上げる。
 流れた汗で、首の後ろや額に髪が貼りついて気持ちが悪い。
 だが、なによりもミオが正気に返ったことに半分だけ安堵する。

「何って……あれ?」

 拾い上げた本を脚立に置き、小さな影の元に膝をつく。

 冷たい感じのする床に映る黒い影。
 己の影とわかっていても、先ほどの余韻からか今にも襲いかかられそうな予感がしてしまう。
 そんなことはありえないというのに。

「話は後だ。
 こんな所で寝ているな」
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