Information is Money

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 物陰から様子を見守りながら、手にした小さな羊皮紙の切れ端に書き留める。
 なんの変哲もない羊皮紙だ。
 ただ、書いてすぐ後にそれが消えるということ以外は。
 小さめの鳥を使った羽根ペンは持ち運びに便利だが、すぐにインクが乾いてしまうのが弱点。
 おかげでインク壺をすぐに使えるように、持ち運べるようにと道具を作り出さなければならなくなった。
 乾かないインクを使えば良いとは思うだろうけど、世の中そう簡単にそんなものが作れるわけがない。
 いっそマグルの世界のものでも持ちこんでやろうかと考えたが、面倒なのでやめた。

 そこには一組の男女がいて、女は木に寄りかかって、前を見据えている。
 両手は下ろしたままなあたり、いつでも杖を構えられるようにという心づもりなのだろう。
 対して男の方は、いかにもと云った調子で何かをしゃべっている。
 容姿は鑑賞に堪えないこともないが、どうも中身は聞くに耐えないどこからか聞いてきたような甘言を使うとは聞いている。
 見るからに、女は男を嫌っているふうだった。
 中身がどうかは女は知らないだろうが、おそらく本能で危険を感じ取っているのだろう。

 不安要因は他にもある。
 それは女のネクタイが赤と金のグリフィンドール寮生であることを示していることと、男の方がその敵対寮、緑と銀のスリザリンであることもまた大きな要因のひとつだ。

 いや、彼女の場合はそんなことは普段から当てはまらない。

 問題は、これが、男の虚偽と虚栄と自尊心から行われている性質の悪い悪戯であるということだ。
 そんなことは情報網を駆使しなくても、簡単にわかる。
 男は女癖の悪い、加えて飽き易い、横暴で、我侭で、それでいて教師の信頼も厚い、優秀なスリザリンの監督生なのである。
 


「……レン?」

 肩に置かれた手を払いのけて、どきどきと胸を高鳴らせながら、私は彼らのやり取りを見守り続ける。
 もちろん、男の方が無理強いでもしようものなら、即座に報復にでる準備はあるけれど、できるなら女の技量にまかせたいというのも――

 親心ではないだろうか。
 


「絶対ちがうって、それ」

 なんでそんなことシリウスにわかるのよ。
 


「なんで振り向いてないのにシリウスってわかるの?」

 二人とも邪魔しないでよ。
 今、いいところなんだから。
 


「なに、またリリーの告白現場の立ち聞きしてんのか」

 いいからあっち行って。
 セブルスに悪戯すんでしょ?
 早くしないと今日は彼、もう寮に戻るわよ。
 


「レンに隠し事はできないね」
「なんでバレたんだ?」

 そんなもん聞かなくてもわかるわよ。
 あんたたちがここを通った時点でね。
 


「へぇなんでもお見通しってわけか」

 そういうこと。
 だから、早く……

「あ、リリー!!」

 慌てて私は女に向かって駆け出した。
 そばにつくまでものの数秒もかからない。
 それだけ近くにいたわけだけど。

「探したよ〜。
 魔法史のあのすんごい長い課題終った?
 答え合わせ、させてほしいんだけど」

 明らかにホッとした顔のリリーと、笑顔を引きつらせる男。

「あ、お邪魔した?」

 まるで今、そこにいることに気がついたように、男にむかってばつの悪い笑顔を浮かべてみせる。
 視界の端に見えたシリウスとリーマスがなんか顔を抑えて、影に隠れたけど、そんなに可愛くないかな。
 私。

「いいえ。
 いいの。
 もう、用はすんだから」

 オロオロしてみせる私の手を引いて、リリーはさっさと歩き出してしまう。
 肩で風を切るその姿は凛々しく、揺られるまっすぐのエナメルが華やかさを加える。
 冷たい凛とした華やかさ、強さは彼女独特のものだ。
 清楚な容姿にして、気の強いその性格。
 しかし、分け隔てない公平な優しさ。
 どれをとっても完璧で、この少女が選ぶのはどんな男であるか、それが目下の私の楽しみである。

 申し訳なさそうに慌てて男に礼をして、ひきづられるままに私たちは寮への廊下を急いだ。
 もちろん、これっぽっちもそんなことおもってやしないが。



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