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 大広間へ向かっていると、ジェームズたち4人が反対側から歩いてくる。
 悪戯直後のジェームズはそれはもう隙があって、かわるがわる悪友たちを見回しながら落ちつきなく歩く。
 それでも人の通行の邪魔だけはしないのだから、まぁ立派なもんである。

 ただ今日は、ちょっとおかしかった。
 彼らの間を普通にすり抜けてやりすごそうとした私たちの腕を彼かがそろって引っつかんだのである。

「え、何!?」

 混乱しているリリーを横目で確認しながら、私は片腕を捕らえるシリウスを睨んでみる。
 彼は私を一瞥しただけで、あとは普通に歩いている。

「せめて前を向いて歩きたいわね」

 そうこぼすと、リーマスがもうちょっと待ってねと囁いてくる。
 その瞳と声の悪戯な輝きにというよりは、私もリリーも視界に映る姿に目を見張った。
 もう午後の授業は全部終了しているというのに、この時間にこれだけの大人数が廊下にでてくるなんて、ありえない。

「シリウス、リーマス。そっちは頼んだ!!」
「おう、気をつけろ。ジェームズ」

 直後、視界からリリーとジェームズとピーターの姿が消えた。

 私はというと、風を切る音に目を見張る間に、いつのまにやら知らない古い教室に連れてこられていて。
 そこでようやく私も地に足をつく。
 今まで、この二人の両脇に抱えられていたのである。

「レン、何も言わずにこれをのんで」

 みただけでわかるそれは、ポリジュース薬。
 変身薬だ。

「何やろうとしてるの?」
「いいから」

 シリウスはソワソワと廊下を気にしている。
 リーマスは落ちついて、私を見つめている。

 ちょっと考えてみよう。

 さっきまで、リリーは告白……じゃなくて。
 そこからじゃなくて、廊下を歩いていたら、こいつらにリリーと二人で拉致られて、リリーはジェームズ、ピーターと消えちゃって、私はどういう経路でか、この二人に埃の匂いのするかび臭い教室に連れてこられ、ポリジュース薬を飲めと強要されている。

 リリーはどうしているのだろう。
 逃げなければならないというのなら、たぶんジェームズといるのは正解だ。
 ジェームズなら間違いなく彼女を無事に寮へ連れて帰ってくれる。
 じゃ、私はどうしてここにいるのか。
 守るためにこの二人が変身しろと言っているというのは考えられない。
 そして、私が行動はともかく、リリーの幸せを一番に願っていることもこの二人は知っている。

 ここから弾き出される解答は。

「リリーのためなのね?」

 答えは、リーマスの苦笑ひとつで充分だった。
 理由はどうあれ、リリーを守るためというのなら、私は囮なのだろう。
 そして、これはおそらくリリーになる薬。

 一気にあおる液体は喉を通りぬけ、順調に胃袋へと到達し、じんわりと身体に吸収されていく。

「ちょっと、これ、お酒入ってない?」

 一瞬喉を通りぬける焼けるような感触に少し咳き込む。
 背中を優しく摩るリーマスの手は冷たい。
 シリウスはというと、ずっと廊下だけに意識を集中している。

「なんでシリウス怒ってるの?」

 聞きながら身体が焼けるように熱くなる。
 感覚に逆らわないように深呼吸を繰り返し、熱も痛みも引き受ける。
 骨のわずかに軋みそうな音だとか、異常な感覚に声をあげ続ける内面の自分を無理やり押さえこむ。

「完璧だね。
 さすがジェームズ」

 落ちついた、安堵の混じったリーマスの声に安心して私は目を開いた。
 常よりも白い肌が目に飛び込んでくる。
 憧れ続けたリリーと同じ白皙の肌だ。
 頭に手をやって、髪を引き寄せる。
 夕焼を水に浸してそのまま糸で掬い上げたような束は冷たくて柔らかい。

「鏡、ない?」
「大丈夫。リリーにしか見えないよ」

 それを見たいんだけど。

「効果は半日って言ってたよ」

 つまり、今すぐにはみなくてもいいってことか。

 とりあえず立ちあがって、ローブを探る。
 あった。
 羊皮紙と、羽根ペン。

「何書くの?」

 今、リリーの姿になっている。
 私はどんな感じだろう?

「ああ、書いておくんだ」
「そ」

 短く答えて、落ちないようにしっかりと服の中に2つを捻じ込む。
 リーマスが慌てて視線を逸らす中、シリウスが大股で近寄ってきて、私の手を取った。

「リリーはそんなことしねーだろ」
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