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 寝て起きればもとの私の姿。
 そう、思っていた。

 リリーは確かに可愛いし、綺麗だし、憧れるけど、別に私は自分の顔を嫌いなわけじゃない。
 むしろ好きな方だ。
 ナルシストというわけじゃないけど、それなりに気にいってはいる。
 だから、これはとんでもない事態だ。
 私の姿が、私じゃないなんて。

「――どうしてくれようかしらね?」

 男子寮の目当ての部屋の前で、リリーの姿のままの私を見咎めるものはいない。
 それは、今が授業中で誰もいないということに加え、私は熱を出して寝込んでいることになっているから。

 部屋の中は綺麗とは形容し難い。
 まずそこら中にお菓子が散らばっている。
 それに混じっているのはゾンコのイタズラグッズ。
 羊皮紙はそれぞれ机に置いてあるけど、本は適当にそこら中に散らばっている。
 物を動かさないように、私はベッドのひとつへと近づく。
 見えないものを隠す時、私ならどうするか。
 ポイントはそこにある。

「……無用心ね」

 何も無い空間に布の感触を確かめて、掴み上げる。
 音なんてしない。
 なにもそこにあるようには見えない。
 でも、確かな感触だけがある。
 それだけで充分だ。

 報復は、速やかに。
 密やかに。
 スリザリンの馬鹿どもに加えて、悪戯仕掛人たちにも丁寧かつ丁重に――を。

「レン!」

 間一髪マントを頭からかぶって、そっと移動する。
 部屋に入ってきたのはもともとの住人であるジェームズと、それにシリウスとリーマス。
 ピーターが代わりにノート取ったりしてるのだろうか。
 可哀相に。
 報復リストからは外してやろう。

「いないな」
「絶対にここに来ると思ったんだけど」
「やっぱりジェームズも怖い?レンの報復」

 しゃべりながら、三人は部屋の中央へと移動してくる。
 私はこっそりとドアへと近づく。

「いいや。
 もう少しすれば大した秘密でもなくなるしね」
「それって、僕も知らない秘密だね?」

 シリウスは一言もしゃべらずになにか考えこんでいる。
 その脇を音も風も立てないように移動する。

「リーマスは怒るからまだ秘密」
「僕が怒るようなこと、しようとしてるの?」
「そうだよ」

 まったく悪びれない。
 けれど、その瞳の奥にあるのは悪戯ではなく、確かな温かさや優しさと呼ぶべき響きだ。

 くんっと透明マントがなにかに引っかかった。
 お菓子の箱だ。
 こんなときにかかるなんて、ついてない。
 見つかっても厄介なので、そっと屈んでしずかにマントを持ち上げ、やり過ごす。

「おまえら、今はそんなことよりレンを見つけるのが先だろ!?」

 すぐ近くで聞こえるシリウスの苛立つ声に、不覚にも強く反応してしまう。
 しかも苛つきながら歩き回る厄介な癖を持っているのだ、彼は。
 床の上の物を蹴飛ばしながら歩く様子に舌打ちしたくなってくる。
 そんなことをしたら一貫の終わりだが。

「リリーが部屋にいないから、だったらレンなら平気で男子寮に入るし、絶対に透明マントを盗りにくる。
 そういったのは、ジェームズだろ!?」

 近づいてくる足に、心臓が高鳴る。

 近づいてくるな、近づいてくるなぁ!!――あ、向こうに行った。
 念じたのが効いたのだろうか。

「少し落ちつけよ、シリウス」

 しかし、さすがはジェームズ。
 良い読みをしている。
 私がここにくることをしっかり読んでいたなんて、流石としかいいようがない。
 普通、女子がもぐりこむとは思い当たらないだろう。
 彼らなら、せいぜい寮を出て、秘密の通路を使って昨日のリベンジにでかけていると思ってもいいはずだ。

「いくらレンがいないからって、そう苛ついてたら、大事な物も見落とすよ?」
「そうそう。
 どうせ今会っても姿は彼女じゃないしね」
「リリーの姿でもレンはレンだ!
 くっそ!だからヤだったんだよっ」

 どかっと近くの机が跳ねあがる。
 ジェームズが冷静に「机が壊れるよ」と笑いながら咎める。
 いや、咎めるじゃなく、からかう?

  何を?――シリウスを。

  どうして?――わからない。

「じゃあ、どうして最初に秘密の通路を除外した!?」
「むやみに歩き回っても、見つかるわけがないだろう?
 それなら、こいつを使うほうが早い」

 古びた羊皮紙の切れ端は見たことのないもの。
 ジェームズが自分の杖で叩いた瞬間、私はとっさにドアまで走っていた。
 どうせシリウスが動き回っているから多少動いてもわからないだろう。

「そう、僕らにはまだ切り札があったね」
「なんのために作ったと思ってるんだい?」

 知らない情報が一気に押し寄せてきて、頭が混乱している。

「シリウスも来てごらん。
 すぐにレンが見つかるよ。
 君の愛しい女の子がね」

 うそだ。
 ぜえったいに嘘だ!!



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