Information is Money

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 リリーになって三日目。
 私はまだ元の姿に戻れないでいる。
 授業に出るわけにも行かないので、ホグワーツ内の自分の隠れ家のひとつとしている教室で今、これを書いている。
 これ、この紙を作ったのは私だけれど、教えてくれた人物は現在、

 図書室に行けば会えるだろうか?

 会えたとしても素直に教えてくれるとは限らない。
 交換とする情報も足りない。

 となると、ここはやはり魔法薬学に詳しい彼に頼むのが得策だわ。
 さて、今回はどんなネタで行こうかしら。

 丁度、教室のドアが開いた。
 こんな風に静かに歩く足音は彼しかいない。

「セブルス」

 いつものように呼びかけて、気が付く。
 まだ話していないから、リリーのマネをしても気がつかないだろう。

「セブルス・スネイプ?」

 彼は何も言わずに近づいてくる。
 一片の迷いもない足取りに、ただ微笑んで見せる。

 私の目の前で立ち止まり、瞳に困惑の色を乗せて、深くため息を付く。
 たぶんいつもきっちりと止めている緑と銀のネクタイのせいではないのだろうか。
 この人は、見かけ以上にいろいろ苦労しているみたいだし。
 大半は私のせいもあるかもしんないけど。

「貴方、魔法薬学は得意だったわよね?」

 眉間に皺が増えたわ。
 この年でその表情が似合うって、問題ありだと思うわよ。
 まるでこれから先も人生が大変そうに思えるもの。

「事情は大体聞いた。
 材料は揃えてあるのだろうな、レン」

 先手を打たれて、肩の力を抜く。

「どれが必要かなんて、私にわかるわけないじゃない」
「威張ることじゃないぞ」

 胸を張って言いきると、何故かセブルスも安堵を見せる。
 口角も僅かに上がり、笑っているようにも見える。

「中身は本当にそのままなのだな」
「中身までリリーになれるわけないじゃない」
「安心した」

 ローブから袋を取り出し、テーブルに並べる。
 鍋は用意しておいたもので十分なようだ。

「心配してくれたの?」
「先日のバカ者どもがな、おまえを袋にしてやると言っていたのでな」
「そんなこと本当に出来るわけないのに、ずいぶん暇なのねぇ。
 スリザリンって」

 しみじみ呟くと、セブルスの動きが一度だけ止まった。

「本気でそう、思っているのか」
「ええ。
 悪いかしら?」

 夕陽色の髪に指を通す。
 さらりと通り抜けるそれは、ぴかぴかと光って、とても綺麗だ。
 ずっと羨ましいとは思っていたけれど、いざ手に入ってしまうと、もとの自分の真っ黒な髪のほうが恋しくなるなんて、へんてこだ。
 セブルスともシリウスとも同じ色だけれど、暗い色だとは思うけれど、やはり自分の姿のほうが性に合う。
 合う合わないの問題でもないか。

「いいや、レンらしいな」
「なにそれ」
「はっ、深く気にするな」
「気になるに決まってるでしょう」

 こちらに一度視線をやり、材料を順序良く、一部の無駄もなく調理して行く様を眺める。

 ひまだわ。

 こうしてみると、セブルスも悪くない。
 真面目すぎるぐらい真面目で、とても頼りになる。
 それを覆い隠しているのはやはり、緑と銀のネクタイのせいなのだろうか。
 だが、他の寮のネクタイが似合うかといえば、とてもそうは思えない。

「なんだ?」

 不機嫌に振りかえると、後ろで緑色のリボンが揺れた。

 緑色のリボンが。

「ぷっ」

 犯人は誰なのかわかっているけど。
 こんなことをするやつらは心当たりがあるけれど。
 ここはひとつ恩を売っておくべきか、それとも黙っておくほうがいいか。

「……クッ……フフ……」

 ダメだ。
 目が離せない。
 少し動くたびに、揺れる緑のリボンが。

「可愛いわよ、セ・ブ・ちゃん」
「!?」

 私の視線を追い、頭に手をやる。
 状況に気が付き、顔を赤くしたり青くしたり、そのうち怒りモードになって。
 なんて飽きないのかしら。
 この人。

「あいつらか……!」

 投げつけられた緑のリボンを手に絡めるが、リリー姿にはさぞかし似合わないことだろう。
 もとの私の姿でもセブルスよりも似合うという自信はない。

 動揺を抑えて鍋を混ぜている当り、セブルスも慣れている。

「セブルスはさー、私のこと、好き?」
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