Instrumental
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「Lumos(ルーモス 光よ)」
淡い光に目を見張る。
そして、自分の状況に流石に赤面する。
黒いシリウスのローブに包まれている私。
触れる彼の身体は熱くて、力強い。
杖の先の光は虹の輪を描いて、辺りをほんの少し照らす。
月の光よりも温かい光。
むしろ太陽に近いかもしれない。
光を灯したのは、黒と鳶色の髪の二人のあの少年たち。
姿はシリウスの顔ごしに見えたけど、月の光が届かない場所にいる二人は薄ぼんやりとしていて、輪郭がはっきり見えない。
身体がはっきり見えないのはローブを着ているからだ。
それと、月の光も魔法の光も弱いから。
「はいはい、そこまでね。
シリウス君」
「いくらなんでもそこで襲っちゃ犯罪者だよ、シリウス」
がんとか、ごんとか、遠慮なく叩かれても腕が緩まない。
どうなってるんだ、この人は。
「いってーよ、少しは手加減しろ。
お前ら!」
見上げるシリウスの顔にはかすかに涙が滲んでいるから、確かに痛いのだろうなと思う。
「ひどいなー犯罪者になりそうな友人をせっかく止めてあげたのに」
鳶色の髪の男の子はニッコリと微笑む。
優しそうだけど、なんか怖い。
「怯えてるのに無理すると、余計に嫌われちゃうぞ?」
眼鏡の人はさらに何かを振りかぶろうとしているようにみえる。
「頼んでない」
なにかの割れる音が聞こえる。
「いてぇってばよ!」
「さっきのは誰に対してかな、パッドフット」
「僕に対してなら、お門違いじゃないかい?
一緒にミコトを探してあげたじゃないかっ」
なんだかわからないけど、シリウスは私を離したほうが逃げやすいんじゃないだろうか。
「それより、どこから見てたんだよ、おまえら!!」
「どこからといわれたら」
「パッドフットが犬のように鳴いているところぐらいからだよ」
さっきからいってるパッドフットって、肉球のことだよね。
肉球といえば、シュウマイ食べたいなぁ。
ホグワーツには無い料理だし、今度帰ったら中華料理店に連れてってもらおう。
「さいしょっからじゃねーか!!」
シュウマイの前に前菜は何がイイかな。
そういえば、中華料理のフルコースって、食べたことないや。
あるのかな。
――じゃなくて。
「畜生、おまえらには絶対聞かせたくなかったのに」
もしかして、もしかするのかしら。
「近年稀に聞く美声を独り占めなんて、ずるいよ」
「将来大物になるね、ミコトは」
あぁ!やっぱり、聞かれてたんだ。
思考がようやくそこに思い当たったとたん、恥ずかしさで全身がさらに熱を持つ。
顔を上げていられなくて、抱きしめられたままということもあって、シリウスのローブの中に潜った。
月の光も届かない、真っ暗闇。
だけど、どこか安心するのは、温かさのせいだろうか。
「ん?どうした、ミコト?」
「……帰りたいです」
「もう眠くなったのか?」
「……違います」
恥かしくなったんです。
離れて、と使えば命令になってしまうかもだし、私は誰かの意思を無視してこの力を使いたくない。
「いいたいことはちゃんと言わないと、この馬鹿犬には伝わらないよ?」
鳶色の髪の少年の言葉は優しいようで、さっくりと突き刺さる。
言いたいことを言ったら、それはそのまま力になってしまう。
「言葉を使うことを怖れちゃいけない」
幾度となく言われた言葉を繰り返される。
この身に持つ力のせいで、何度も私を後悔させてきたコトバたち。
なにも知らないクセにとは、いえない。
私は何もいっていない。
何も言えないから。
この部屋に差しこむ月の光のように、ただそこに存在するというだけの私になにがいえるというの。
仕方ないので、疑問形にしてみる。
力が現れるようになってから、それほど多くは話さなくなったから、どうにもどうすればこの言葉が影響しないのか加減がわからない。
友達も遠ざけてきたから、どういう風に話せばいいのかわからない。
「……離してくれませんか……?」
そこから、時間がとてもゆっくりと流れているような気がする。
時折ゆっくりした星の瞬きさえ、みえるように。
ここに砂時計があったら、落ちる一粒一粒までも確認できるに違いない。
時間を動かしたのは、振動と笑い声だった。
* * *