Teach the Truth

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* * *(リーマス視点)
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 白い部屋だ。
 マグルの世界の病室というのは。
 似合いそうな花を持ってきたよ、ミオ。

「今日は良い天気だ。
 すこし日にあたったほうが良い」

 ベッドに眠っているミオはなんの光も宿さない瞳で、虚空を見つめていた。

 シリウスが大量殺人を行った現場近くで、ミオもまたマグルの世界の病院に運ばれていた。
 ダンブルドアの報せを受けて、僕はいそいで来たけど、待っていたのは空っぽのミオだった。
 死んではいない。
 けれど、これでは死んでいるのと同じではないのか。
 息をしている。
 ただ、それだけだ。

「仕事はやっぱり見つからないんだ。
 なかなか、満月近くに出られないとなると不審に思われるから、長居できないし」

 返らない答え。
 いつもだったら、無責任な言葉を掛けてくれるのに。
 それさえも、ない。

 真実を自分で確かめに行った君は、何を見つけたの。
 僕はそれを知りたいのに。
 君はもう、動かない人形なんだね。

「僕は何もできなかった」

 マグルの病院から移さないのはダンブルドアの指示だ。
 いくら人形のようになったとはいえ、ミオは闇払い。
 ヴォルデモートの支持者がいつ襲うかわからない。
 だったら、まだここのが安全だと。

「どうして、あの日僕は君と行かなかったんだろう」

 ミオ以上に闇の魔術に対する防衛術は心得ていた。
 ただ、人狼故に闇払いにならなかっただけだ。

 窓を開けると、涼しい風が吹いてくる。
 ホグワーツ特急での風と似ていて、僕はすべての時間が戻るような気分になる。
 くだらない感傷だ。
 いなくなってしまった友人は誰も戻っては来ない。
 ミオのベッドの隣に座って、その手を取る。
 細くやせ衰えてしまっている手は、わずかな重みしかない。
 生き生きとしていた表情も当然なりを顰め、虚空を映す瞳にどれだけ入ろうと、ミオの心に僕はうつらない。

 どうして、永遠なんて信じたんだろう。
 そんなものはどこにもないと、僕は昔から知っていたのに。
 ずっとミオといられる永遠を信じていた。
 僕たちの間にあるものは変わらないと、信じ切っていた。
 伝えなかったことを悔やんでも悔やんでも、すべてはもう届かない。

「ミオ」

 声は届かないと、知っていた。

「ミオ」

 何もその瞳に映さないと知っていた。

 でも、好きだった。
 好きなんだ。
 どうしようもないほど、ミオが好きで。

「………………っ」

 どうしようもなく無力だった。

 ジェームズ、僕はまた何もできないよ。
 どんなに時間が経っても、好きな女ひとり救ってあげられない。
 君なら、こんな時、どうする?

『できることをやるんだ。
 今の君にできること』

 鮮明に聞こえる声に慌ててあたりを見回す。
 いるハズがない、いるはずがないんだ。
 これは過去の記憶の声。
 君はどこにもいない。

「……ジェームズ……、僕は、何が……できる……?」

 いないとわかっても虚空に問い掛けずにはいられない。
 大切なものはいつも消えてしまう。
 持ちきれない砂は持っていなかったのに、残っている僅かなものはすべて奪い去られてしまう。
 いつも。
 いつも……っ

 白い頬に手を沿える。
 冷たい滴が手に、触れる。
 泣いているのか。
 いや、彼女は泣いていない。
 泣いているのは、僕。

「好きだよ、ミオ」

 生きている限り、僕が守るよ。

 たとえ、その瞳に僕が決してうつらないとしても。

 動かないミオにくちづけても、何も起こらないと知っているけど儀式のように続ける。
 不思議だね。
 声が届かなくなってから、こう出来るなんて。

「ミオの声が、聞きたいよ」

 いつかその願いは叶うだろうか。
 叶えさせてくれ、ミオ。

 お姫さまは王子のキスで目覚めるの、とよく君は話してくれたけど。
 現実じゃないんだね。
 だって、ミオは目覚めない。
 それとも、僕がミオの王子じゃないってことなのかな。

 それでも、そばにいるよ。

「ダンブルドアから手紙が来たんだ。
 僕、教師になるんだよ」
「ジェームズとリリーの息子ハリーが通うホグワーツで教えるんだ」
「きっと……、いや、絶対、シリウスも来る」

 ミオをこんな目に合わせたシリウスに、僕はどれだけ冷静でいられるかな。

「真実を、この目で確かめてくるよ」

 ミオの勇気を、臆病な僕に分けてください。



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