one‐shot

□Camera Woman
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ドリーム設定





 木に隠れて様子をうかがう。
 木陰にというよりも、むしろ上からバレないように。
 気分は探偵とか泥棒とか、とかくろくな職業じゃない。
 一応、将来の夢はまさか魔法省に勤めて大臣になるとか大それたものじゃなく、普通にすごい魔法使いになりたいとは思ってる。
 でもどこがどうすごければいいのか、私にもよくわからない。

「よーっく狙うのよ、リサ」
「わかってるわよ、リリー」

 親友の言葉に静かに返す。
 手にしているのはマグルの世界のカメラで、こっちのみたいに動いたりした写真はつくれないけど、今回は重要な道具だ。
 マグル世界のものを持ちこんだなんてばれたら、どんな罰があるかわからないけど、かなりのスリルでドキドキしている。

 私達の狙うファインダーの向こうには、2人の少年が寝転がって何かを穏やかに話していた。

「二人一緒とひとりずつ、だよね?」
「そーよ。
 当然よ。
 二人とももてるんだから」

 指示する親友はホグワーツでも一、二を争う美少女、リリー。
 でも、その中身が外見以上に棘だらけであることも知っている。
 使い古された表現だが、リリーは外見は百合のようであっても、中身は茨の棘だらけであった。

 発端は私の持ってきたカメラ一台。
 父の持ちモノから拝借してきた小さなカメラだ。
 狙っているのは午後の明るい陽射しだから、フラッシュはいらないだろう。
 魔法で望遠機能もつけたし、二人で試した。
 だから、今こんなに距離があるのに二人の姿ははっきりと見える。

 ファインダーの向こうの世界は別世界。
 そう、誰かが言っていたのを思い出す。

「特にシリウスは、中身馬鹿だけど顔良いし」

 片方の少年の黒髪が風に流され、造作の良い顔が隠れる。

「リーマスも、中身臆病だけど人当たり良いし」

 隣の色素の薄い猫っ毛の少年が髪をかきあげる仕草は、カッコイイというよりも可愛い。

「この二人なら、高く売れるモノね」

 隣で温く笑っているであろうリリーを思って、静かにため息をついた。
 彼女には敵わない。

「でもさ、写真ならマグル製よりこっち製のがいいんじゃない?」
「あらーわかってないわね、リサは。
 特別な一瞬は動かない方が幸せなのよ」

 特にアイツ等はね、とリリーは付け足す。
 そうかもしれないと、私も頷く。

 この会話に出てはいないけど、眼鏡の首席でグリフィンドールの名シーカー、ジェームズも「アイツ等」の中に入る。
 ホグワーツの悪戯仕掛人とかいろいろな意味で有名だけど、なにより顔も頭も並以上だから、当然大抵の女の子は放っておかない。

 そうこうしているうちに、向こうから誰かが駆けてくる。
 風に黒髪が踊って、寝癖なのかよくわからない方向に流れて。
 なのに、どうしてか笑顔が爽やかなことに、私は背筋をひんやりとしたものが滑り落ちるのを感じた。

 目が合った。

 気がしただけかと思ったんだけど、はっきりと今度はリーマスとファインダー越しに目が合って、彼の口がゆっくりと動く。

「Expelliarmus(エクスペリアームス 武器よ去れ)!」

 ファインダーが勝手に離れて。
 しっかりと握っていた手ごと枝から身を乗り出して。

「き……」

 気がついたら、支えが何もなくなっていた。
 持っていたカメラがすぽんと抜けて、手が空を掴む。
 視界がぐるりと回転して、地面が近づく。
 驚くリリーの顔は貴重かも、と全然関係ないことが過った。
 でも、こんなことで死んじゃうのはイヤだ。

「馬鹿、リーマス!!」
「Wingaradium Leviosa(ウィンガーディアム レヴィオーサ)!」

 誰が言ったのかわからない。
 ただ身体に重力と反対の浮遊感があって、目を瞬かせながら、私はゆったりと地面に足をついた。
 着いた瞬間、足元の草が私を中心に風を広げる。

「大丈夫か!?」
「怪我は、リサ!?」

 地面にへたり込んだ私をジェームズとシリウスが囲んでいろいろ言っていたけど、リーマスは少し離れたところから心配そうにしている。
 手には私のカメラ。
 力なく項垂れて、落ちこんでいる。

「リリー!」

 木から飛び降りたリリーはジェームズに抱きかかえられ、でもすぐさま抜け出して私のところに来た。

「ごめんね、リサ。
 私のせい?」
「違うよ、リリー」
「……ごめん、リサ……」





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