one‐shot
□fly away
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空を仰いで唸る。
「ぬぅ……っ」
別に晴れ渡った午後の空に呪いをかけているわけでなく、ただ唸りたかっただけだ。
そこには楽しそうに箒にのって横切る人影がひとつ。
「唸っても飛べねえって」
後頭部を叩いて、通りすぎるシリウスを睨みつける。
しかし、そのまま上昇されては手も足もでない。
日本からの留学生であるリサは飛行術がとても(という言葉なんかじゃ表しきれないが)苦手だ。
でも、他の教科は難なくこなし、その上でいたずらを仕掛けるのが大好きで。
当然ながら、ホグワーツ名物の魔法悪戯仕掛人たちとはものすごく気が合って。
遊んでいるうちに教えてくれるという話になった。
だが。
「くっそ〜!」
「リサ、集中しないと」
クィディッチの選手であるジェームズとシリウスは好き勝手飛んでるし、ピーターはコントロールが聞かないみたいだけどかろうじて飛んでる程度で、教える余裕なんてないみたい。
実質教えてくれているのはリーマスだけである。
そもそも私がリーマスに頼んだだけなのに他までついてきたというわけで。
「わかってるよ!
わかってるけど、なんで馬鹿に馬鹿にされなきゃなんないの?」
「それは、君がまだ飛べないからでしょ」
隣に立つリーマスに即答されて、黙ってみる。
笑顔だけど、集中していない私に少し切れかかっているのかもしれない。
この人は怒らせると怖い。
「はいはい。
落ちついて、集中するっ」
「はぁい」
真っ直ぐ正面を見据えて、飛べ、と強く念じてみる。
でも、箒は微動だにしない。
ピーターさえも浮くぐらいは出来るのに(すぐ暴走するけど)、どうして私にできないの!?
「……僕なんかより、ジェームズに教わった方がいいのに……」
ボソッと言う言葉に、あっさりと集中は破られた。
錆びついた機械みたいにぎこちない動きでリーマスを振返る。
だめだ。
この人の笑顔は読めん!!
「ジェームズはクィディッチの選手になるぐらい上手いんだよ?
どうして僕なの」
「――上手以前の問題よ。
リーマスのが教え方上手だから」
今度は困ったように笑っている。
「冗談でしょ。
ジェームズは僕よりも頭はいいし……」
「いい。
リーマスに教わりたいの!」
ジェームズに教わるなんて、そんな、そんな恥かしいことできるわけがない。
だって、これは秘密、なんだから。
私が特別の好きをもってるってことは絶対最大の秘密なんだから。
「ジェームズがね、空の散歩したいな〜って、言ってたよ?」
「え!?」
誰と、という言葉を吐き出しかける私に畳み掛けてリーマスは続ける。
「皆で」
その勝ち誇った表情は、間違いなく私の反応を予想しきれた満足。
――嵌められた。
「ジェームズが好きなら、ジェームズに教わりたいもんなんじゃないの?」
普通の女の子なら、きっとそう思う。
でも、散々一緒に悪戯しつづけた戦友に今更告白なんぞ出来るはずもなく。
ましてや赤くなる顔を隠すのに必死だというのに、二人で教わるなんて。
「私の心臓の方が持たないよ……っ」
ジェームズの隣にいる時は心臓だけどこかに放り投げて、聞こえないように蓋をして鍵をかけてしまいたいくらいだ。
いつか鼓動が時計よりもはっきり聞こえるようになってしまうんじゃないかと心配しているし。
そうなったら、きっと、きっと、もう一緒にいられない。
もう一度だけ、何も考えずに地面を軽く蹴ってみる。
「あ、リサ!?」
ギュッと閉じた目に、遠く下方からリーマスの声が届く。
心配と焦りを多分に含んで、でもどこか嬉そうな声だ。
下から、聞こえた?
「と、飛べてるの!?」
「ちゃんと飛べてるよ!
すごいよ、リサ!!」
私の箒を抑える手がひとつ。
「わわっ、ジェームズ!?」
「でも、もうちょっと集中しようか。
急にこの高さは危険過ぎるし」
初めて飛べた感動よりも、隣にジェームズがいることの方がすごいことだ。
風が私達の間をすり抜けていくのなんて気にならないくらい、すごい。
「ジェームズがどうしてここに?てか、急にこの高さって……」
下を見て、すぐに理解した。
高い。
ものすごく高い。
リーマスが指の第一関節ぐらいしかない。
「もしかして……」