one‐shot

□Little change
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 リリーははっきり言わなくても誰が見ても美人だと思う。
 鏡よ鏡よ鏡さんなんて聞かなくても、絶対に。

「なに?」

 身嗜みと称して薄く化粧しているけど、それでもしなくても全然。
 まず私とじゃ素材からして違う。

「なんなの、リサ?」
「いや、美人だなーって」

 それから素直で可愛い。
 こういう風に誉めると、白い透き通った肌がすぐに赤く染まる。

「やだもうからかわないでよ」
「本心本心」

 きししと歯を見せて笑うと、控え目だけど優しく笑ってくれる。
 私の親友は美人で気立てがよくてすごく素直だ。

「リサに言われるとからかわれているようにしか思えないわ」
「なんで?」

 わかってないわねと、ため息をつかれてしまった。
 そんな姿さえも絵的にすごく綺麗だ。
 美人は三日で飽きるなんて、絶対嘘。
 毎日見てても飽きない。
 そういえば、彼女がこんなふうに化粧するようになったのは、いつからだっただろう。

「リサもお化粧する?」
「似合わないし、いいよ」

 リリーの隣でいくら化粧しても誰が見るっていうんだろう。
 引きたて役とまで自分を卑下する気はないけど、別に飾ろうとも思わない。

「それに、めんどくさい」

 本心だった。
 困ったように微笑む姿は、やっぱり可愛くて綺麗だ。
 綺麗の比率の方が高いだろうか。

「またそーゆーこと言って。
 誰かさんの為にオシャレしたいんじゃないの?」
「え!?」

 意味ありげに微笑まれて、私の方が赤くなる。
 言ってるリリーも赤いけど。

「なんなら、手伝ってあげましょうか?」
「いえいえ似合わないことはやめておきますわ」
「似合わないなんてことないのに」

 残念そうに言われても、リリー以上に綺麗になれそうもない。

「試しに少しやってみなさいよ」
「やめとくー」
「いいから」
「よくないから」

 いつもの押し問答をものともせずに顔を洗って、髪を梳かす為に鏡台に立つ。

「やってあげる」
「は!?」

 何故か眉を寄せて気難しい顔をしているリリーに、腕をとって椅子まで引っ張ってこられて座らせられる。

「リリー!?」
「たまにはあいつらの驚く顔って見てみたいじゃない」

 それはむしろ私のためというより、自分の楽しみのためではないのですか。

 心の中ではそう思っていても、なかなか口には出せないものである。

「えっと、じゃあ私もリリーの髪やってあげよっか……?」

 手がわずかに止まる。
 作戦、成功、か?

 と思ったのもつかの間で、止まることなく私の髪を操るのが感じられる。

「お願い、しようかしら」

 かすかに声が震えている。
 動揺が伝わってくるのは気のせいなのかどうかわからない。

 髪を梳かしながら、少しだけ教えてくれた。
 親友といえる友達が、実はリサが初めてだと言うこと。
 肉親の姉にはとても嫌われていること。

「ママとパパがあんまり私ばっかりかまうものだから、拗ねてしまってるのだと思うの」

 ホグワーツに入学して以来、姉とはほとんど口を聞いていないという。

「それでも昔はこうやって髪を結いあったりしてたんだけど」

 できた、といって私の正面にまわってくる。
 手に持っているのは、なにか化粧道具にみえるんですけ、ど。

「リリー、えと、髪だけでい……」
「こうやって、やってあげたかったの」

 その本当に本当にうれしそうな顔を前にして、どうして止められるだろう。
 たった二人の姉妹なのに、憎まれて辛くないハズがない。
 でも、リリーの笑顔が絶えることはない。
 それこそが、リリーの強さで、美しさの秘訣なのかもしれないと思った。
 外見ではなく、内面の弱さを受けとめる強さが、彼女をよりいっそう美人にする。

「ねぇリサ。
 あなたは本当に私なんかより、とても綺麗なの。
 だから自信を持って」

 そういって鏡を見せる。

「リリー以上の美人はいないのよ」
「リサ以上の美人を私も知らないわ」

 誉め殺し、じゃなく。
 なんだか言葉の魔法にかけられるみたいだ。
 そういえば、リリーはルーン文字の成績もよかった。

「悪戯仕掛人も見直すわよ」
「うわー……そんなのは別にいいんだけどさ」

 普段一緒に馬鹿やってる友人に見直されたところで、なんとも思わないんだけどな。

「昨日の手紙、なんかあったの?」
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