one‐shot
□Catch Cold
1ページ/3ページ
外を伸び伸びと飛びまわるシリウスを見上げて、私は苦笑した。
ジェームズのが断然上手いし、リーマスの飛び方のが安全、ピーターは必死だけど。
楽しんでいるという点では、シリウスが断然最高位ではないだろうか。
青い空、飛行機雲を十字に横切ってる姿を、両手に息を吹きかけながら見上げていると、いろいろと考える。
「リサ、具合はどう?」
心配そうに覗きこんでくるリリーに、笑んで返す。
「楽しい」
半分本当。
よく晴れて一面の青に白い線が一本横切っているのを背景に飛びまわっているのは、シリウス他グリフィンドール寮の勇敢なクイディッチチームだ。
チェイサーのジェームズもビーターのシリウスもみんな楽しそうだけど、ここでもやはり一番はシリウスだろう。
「でも、そろそろ戻ったほうがいいわ。
まだ風邪治ってないんだから」
「もうちょっと」
クスクス笑いながらも、目だけはシリウスの姿を追う。
動体視力で追うよりもたぶん、予測視力のが早い。
……そんなものが私にあれば、の話だけど。
「じゃあ、このマフラーも」
「リリーが風邪ひいたら困るからだめ」
隣でマフラーを外しかける親友の手を抑えて止めて、ローブをしっかりと併せさせる。
隙間から入ってくる風とか、吹きつけてくる強風に捲りあげられないように、しっかりと私も自分のを併せて持っている。
「それじゃ、帰りましょう?」
「……もうちょっと」
視線の先には青空に舞う蝶々。
……クロアゲハ?
吹きつけてくる風が急になくなる。
「リーマス、丁度良い所にきてくれたわ」
代わりにオレンジペコーの甘い薫りが温かさを連れてくる。
「まだここにいたんだ。
風邪ぶりかえすんじゃない、リサ?」
渡された紅茶はとても温かくて、飲んでしまうのがもったいない芳しさだ。
リリーも両手でカップを包み込んで温まっている。
「うん、もうちょっとだけ――」
ふわりと視界を赤と明るい橙が遮る。
「じゃ、これしててね」
リーマスのほうを見ると、彼はしっかりと自分のマフラーをつけている。
巻かれたマフラーに鼻を埋めると、香ってくるのはかすかにコーヒーの匂いだ。
苦い苦い、誰かの好きなコーヒーの匂い。
空を飛びまわっている持ち主らしき人は、やはりマフラーをしていない。
さっきから元気だったのは、ああ、そういうことか。
「馬鹿だよね、シリウス」
「そうね」
「しかたないよ、馬鹿だから」
3人で馬鹿馬鹿言いながら飲む紅茶は、冷え切った身体を芯からほんの少し温めてくれた。
「シリウスはリサ馬鹿だからね」
「ええ。
そして、私たちもね」
「この時期に風邪ひいたらヤバいんじゃないの?」
ふと心配になってくる。
「そのときは、馬鹿馬鹿いってやればいいんだよ。
今みたいにね」
答えは誰もいないはずの宙空から叫んで聞こえた。
ジェームズだ。
しっかりと聞こえていたらしく、手をしっかりと握り締めたままこちらに手を振っている。
それにシリウスが叫びながら殴りかかる。
箒の上でなにやってんだ。
「シリウスー!!」
立ってさっき巻かれたばかりのマフラーを外して放り投げた。
「風邪ひいたら別れるからねっ」
人の心配なんかしてる場合じゃないでしょ、あんたは。
グリフィンドールの素敵に楽しいビーターは。
「帰ろう。
リリー、リーマス」
返事を聞かずに、中へ戻った。
扉を閉めた後で、きっと飛んできただろうけどもう遅い。
怒ったような困ったような複雑な顔をしているであろう恋人は、きっとこれから談話室に駆けこんでくるだろう。
「私、おとなしく寝てるからさ。
みんなにリーマスのあったかい紅茶、用意してあげよう?」
「なんで僕なのさ?」
暗い階段を降りながら、冷たい石の間に笑い声が響く。
「だって、私は風邪引いてるんだもの。
移しちゃうわ」
馬鹿なシリウスでも、風邪を引くからね。
「それに、リーマスの紅茶が一番おいしくて甘いからね」
甘いモノは風邪に良いのよ。
* * *