one‐shot
□Catnap
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* * *(シリウス視点)
妙にだるい日だった。
何もやる気が起きない。
生きているのか死んでいるのかそれさえもわからない、けだるい一日。
まだ夏は来ていない。
外の緑も深く濃く、照り返す陽光は長く白くなってはいる。
けれど、だるい。
寝返りを打ったら、さっきまで自分のいた場所に大きな振動がきた。
芝が濡れていたので、その上にローブを引いて寝転がっていたんだけど、それももうほんのり芝と土の匂いに染まっているかもしれない。
「起きろ、馬鹿」
低い、けれど明らかに少女の声は耳のすぐそばで聞こえた。
聞きなれた耳に心地好い声は怒っているようではなく、よくある悪戯の色を秘めている。
「起きなきゃ、蹴るよ?」
本当にやりそうな気がして、起きあがろうとすると、襟首を引っつかまれた。
深い夜空色の瞳の奥に、俺がいる。
「なんだよ、リサ?」
彼女は口元を歪めて、頬をひくつかせている。
同年の少女の中でも特に白いとはいいがたいが、たしかにやわらかな肌、それの感触を俺は知っている。
「説明が、欲しいんだけどね?」
どうやらひどく怒っているらしいと知って、俺は態勢を立て直すためにその手を掴む。
小さく包みこんでしまう手は、強く襟元を締め上げようとしていた。
「ちょっとまて。
聞くから、手ぇ離せよ」
「やだ」
有無を言わさず、締め上げてくるもんだから、流石に命の危険を感じそうになる。
でも、この震えている手じゃ、何もできないだろうけど。
「シリウス・ブラック?」
「なんだよ、リサ・ミヤマ」
わざわざフルネームで呼んで、なんだってんだ。
「昨日、なんつって私の友達を泣かした?」
「は?」
「あんたに告白してきた子がいたでしょ、濃いブロンドがソバージュのカーワイイ子!」
なんのことかと思えば、それか。
なんか勘違いしてきた、変な女。
「あぁ、アレか」
最近の俺はおかしいと思う。
どんなに綺麗なブロンドでも、どんなに綺麗な姿でも、これが全部黒ならいいのにと考える。
リサと同じ、黒い髪、黒い目を探している。
代わり、ということだろうか。
でも、どれも違うと知ってるから、どうにもならない。
「アレ!?」
強く締め上げ、引き寄せられて、吐息が顔にかかるほど近くなる。
あと、10センチあるだろうか。
「あんたのおかげで、私の仲良しスクールライフはめちゃめちゃよ!」
それに気がついていないのか、リサは瞳を潤ませて、怒っている。
可愛いなぁと、苦しくなってきた息の下で思った。
なんていったかな。
あの勘違い。
「私のこと、ずっと見てたでしょ?」だっけ。
「私のこと、好きなんでしょう?」だったかも。
どちらにしても、それはとんでもない勘違いだ。
俺がずっと見ていたのは、隣にいたリサの方。
「理由わかんなきゃ、喧嘩できないじゃない!」
血の気が多いとは知ってたけど、そんな理由か。
「誰と?」
「ルームメイトの彼女とよ!」
突き飛ばすように手を離されて、地面に強かに後頭部を打ち付ける。
急にはなすなよ、まったく。
ここがやわらかい地面で良かった。
「昨日あんたにふられてから、ひとっことも口聞いてないのよ?
こんな状態、いやなの。
だから、張本人に聞きにきたのっ」
だから、教えなさいと命令する。
太陽の直射を受けて、細めた瞳が、余計に泣きそうで。
俺のローブに膝をついて、自分のローブをキュッと握り締めて、泣かないように堪えている。
そんな仕草も表情も、ひどく男を誘うものだと気がついていないのだろう。
でなければ、俺の前でそんなことはしない。
「なんて言ったかな……」
「思い出さなきゃ、また締めるよっ?」
睨みつけてくるその様子は、本気だと物語っているけれど、そんな表情さえも。
「そうやって暴力揮ってると嫌われるぞ」
いつものようにいってやると、もっと泣きそうになったので慌てて引き寄せる。
思うより細い肩に少し躊躇したが、でもそれ以上に反発されるかどうかということが怖い。
「泣くなよ」
「離してよ……っ」
「俺が泣かせてると思われんだろ」
「誤解されるでしょ」