one‐shot

□日常風景
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 早朝より一足早めのひそやかな鳥の声に、私は起こされる。

 今日も素敵な一日の始まり!

 などと私が思うわけもなく。
 気だるさの残る身体を引き摺って、適当な服を引っ張り出し、キッチンへ向かう。

 本日の食材を探すものの、籠に入った卵が数個と昨日焼いたロールパンが1籠分だけ。

「……足りない……」

 絶望的に呟く自分の声もだるそうで、もう別に朝食なんかどうでもよくなって。
 部屋に戻って、布団を被って眠ってしまおうと考える。
 人間1食や2食抜いたぐらいじゃ死なないし。

 そう考え始めると気分も楽になって、時計を見、まだ時間もあるコトを確認し、居間のテーブルの上に羊皮紙と羽根ペンとインクを準備する。

 さて。
 うちのペットどもにはなんといいわけしよう?

――本日休業。

 別に店でも無いし、勝手に食べに来るだけな野良だし。

――微熱あり。

 普段のやつらの言動からするに、何をされるのかわかったものではない。
 この家がめちゃめちゃにされるのだけは避けたいものだ。

「む〜〜〜〜〜」

 羽根ペンの先からインクが零れる。
 それがじわりと広がって、不思議な文様を映し出す。

――夢見が悪い。

 理由にならんな、これじゃ。

「なにしてんだ?」

 小さく舌打して、表情筋を総動員して、笑顔をむけてやる。

「私、今日はお休みね。シリウス」
「は?メシは?」
「各自で」

 隣に座る影とも光ともつかない男に身体を預ける。
 自分のものではない他人の穏やかな鼓動は、収まりかけた眠気を誘い出すには十分だ。

「各自でって、おい」
「ハリーとリーマスにもいっといてね」
「ここで寝るのか?」

 ココで。
 ここってどこだとぼんやり考えたが、起きるのも億劫だ。
 動く気がしない。

「んー、部屋、連れてって」
「了解」

 世界が回る感覚に吐き気を覚えつつ、両手で胸を抑え、堪える。
 背中と膝の裏には強い腕があるから、おとされることはないだろう。

「あれ、シリウス。
 リサ、どうしたの?」
「今日は休みたいんだと。
 リーマスにもいっといてくれ」

 ハリーの声に目を開けようとしたが、もう目蓋が開くことを拒否してる。

「ハリーぃ」
「心配すんな。
 自分らでちゃんとするし」
「悪ぃ」
「別に今に始まったことじゃねぇしな」

 心地好い震動は子守唄と同種の魔法で、深く意識が混濁して行く頃、ふかふかというより堅いベッドの感触で、反射的に目を開く。
 反射という割にはかなりゆっくりとだが。

「欲しいもんは?」

 間近の曇り空は柔らかく笑っている。
 私の、大好きで、大嫌いな人。
 無言で睨みつけてやると、苦笑を残して部屋を出ていく足音が残った。

 額に手をやる。
 一瞬だけ触れた熱が、身体中を巡って、気だるさが嘘のように消えて行く。
 低血圧の私には丁度良い熱だったというのか。

「〜〜〜〜〜っ!!!」

 冷静になって見まわさなくても、ここは私がシリウスに宛がった部屋でその部屋には当然、住人の香りが残り、布団に包まっているとその腕に包まれているみたいで。
 その心地好さに不機嫌なんて飛んで行ってしまう。

「あ」

 扉に近づいてくる気配に、慌てて私は寝たふりをした。
 今日は何がなんでも食事を作らない。
 外には出ないと決めているのだ。



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