Information is Money
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* * *(リリー視点)
私の前にはにこやかな笑顔を振り撒く男がひとり。
彼の友人たちは現在、私の親友を追いかけている。
私の姿をした親友を。
「どういうことかしら?」
「危険だからね、ここにいたほうがいい」
「そんなことは聞いてないわよ。
ジェームズ・ポッター」
朱に彩られた談話室には今、私と彼の二人しかいない。
ローブの下で、杖をしっかり握り締めて確認する。
「レンの姿は、半日だけの効果と言ったでしょう?」
「もちろん、僕が君に嘘をつくはずがない!」
「じゃあどうしてもとの姿に戻らないの?首席のあなたが間違えるなんてありえないわよね」
「当然だよ!」
食えない男だわ。
さっきからずっとこの調子で、どうにも聞き出せない。
「嘘はつかなくても」
「そんなことより、リーマスが紅茶を用意しておいてくれたんだ。
彼の入れるのは絶品だから、一度飲んでみるといい」
どう見ても二人分しか用意されていないカップには冷めた紅茶が入っていて、彼が杖でひとつ叩くと、あたたかな湯気と甘い香りを昇らせる。
「飲んでる間に、レンも見つかるだろうしね」
彼自身が飲んで、何も入っていないことを示してくれる。
「……私に嘘はつかなくても、他の人にはつくわよね」
飲んでみると確かに美味しい。
甘味も申し分ない。
彼は甘党だから、もうちょっと甘いのだと思ったけど。
「効果が半日と言ったのは、ジェームズじゃない」
先ほどから、独白のように続けるたびに、彼の笑みが深くなる。
「レンの姿がもとに戻る方法は、時間じゃない……?」
「正解。さすが、リリーだ」
風に揺られて、窓がカタカタと音を立てる。
ゆっくりと大きな白い雲が流れていく中、一羽の鳥が飛んでゆく。
「じゃあどうやって」
カタリとドアの開く音に振り返る。
そこには、少し埃で汚れたレンが立っていた。
「レン!」
「ジェームズ〜!いいかげんこの姿を解く方法を教えなさいよ!」
ローブをなくし、ネクタイも外れかかっている。
周囲を見まわしながら、ソファーに蹴りつける。
跳ねた拍子に、紅茶がテーブルへとこぼれ落ちるのを、私は黙ってみていた。
「立ち聞きとは趣味が悪い」
「立ち聞きじゃないわよ!」
「じゃ、どうしてそのことを」
「あんたが今言ったでしょ」
「やっぱり立ち聞きしてたんじゃないか」
ため息混じりに立ち上がる。
その姿は妙な自信と威厳に満ちていて、レンと二人で、少し後ずさった。
壁もないはずなのに、二人とも肩を掴まれる。
振り返るのと、彼らが姿を現わすのはどちらが早かっただろう。
私の肩を掴んでいたのはリーマスで、レンの肩を抑えていたのはシリウスだった。
息が調っているところからして、少し前からいたということか。
「立ち聞きは、してないっ」
視線をジェームズに戻して、レンが主張する。
髪についた汚れを梳いて落とす。
でも、変な感じだ。
シリウスとリーマスの二人が確かに頷く。
それに、ジェームズが首を傾げる。
「そんな暇はなかったよ。
だって、昨日リリーに告白してきたやつに追われてたんだから」
「せっかく俺が、助けてやったってのに、逃げやがって……」
昨日告白してきたやつというとあのスリザリンのしつこそうな男か。
カタチだけの告白をしてきた変な男。
私の姿しか認めていない、中身のない人形みたいに思っていたやつ。
「余計なお世話よ!」
「余計か?」
「押し倒されてて?」
ふっと空気が冷えこむのが彼らにはわかったのだろうか。
全員が、一歩ひいた。
「なんですって?」
「リ、リー……?」
「ジェームズ。いますぐ、レンの姿を戻して頂戴」
「ちょ、リリー?」
「これ以上、レンを私の代わりになんてことで危険な目に合わせないで」
真剣だった。
レンは私の姿をしているだけで、私の代わりに危険な目に合わせつづけるなんて、耐えられない。
大切な、私の親友をそんな目に合わせて。
「……ただで済むと、思わないでよね」
ジェームズ以外の三人が息を飲むのが聞こえた。
彼ひとりが、薄っぺらな笑顔を浮かべたまま。
それはやはり不審で。
まだ何かする気なのかといぶかしむ。
予感はすぐに確信へと変化した。