Information is Money
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空気がまたひとつ変化して、私は杖を振り上げたままの腕を引いて、肘をシリウスの脇腹に叩きこんだ。
思いっきり勢いよくいったから、かなり痛いに違いない。
「いや、別に……」
「そうね、それじゃ狼は鹿も食べるのかしら?」
笑顔が凍りつくというのは見慣れているが、リーマスのそれは少しの罪悪感を伴う。
それでも、ねぇ、ジェームズには効くのかしら。
「……レン」
「……おまえ……どこまで……知って!?」
これ以上は、極秘中の極秘。
関わらせるわけにはいかない。
私の大切な親友には。
「リリー、ゴメン。
Stupefy
(ステューピファイ!麻痺せよ!)!! 」
急に杖を向けられたリリーはその場に崩れ落ちる。
ただ人形のように、美しい生き人形のように。
「嘗められてたものね。
この私が知らないと思っていたの!?」
ジェームズはもう笑顔を完全に消して、こちらに向かってくる。
それに目もくれず、私はリリーを抱き上げる。
リリーに魔法なんて、掛けたくないのに。
でも、ね、ごめん。
みんな大切なの。
今を、守りたいの。
「レン、君は……」
「リリーを、ソファーに運んでくれる?
この姿じゃ運べないわ」
すぐ傍に来たジェームズに顔をあげると、ハッとした顔が神妙に頷く。
どうしてこうなってしまうのかしら。
もっと上手い方法がなかったのかと、なんど自分に問い掛けても答えは出ない。
ソファーに横たえた姿にローブをかけて、顔にかかる髪を避けてやる。
呼吸が乱れている。
私のせいで。
「レンはどこまで知っているんだい?」
いらついた声は常のジェームズらしくない。
それを感じて、何かを言おうとしていたシリウスもリーマスも口を噤んだ。
「言っていいの?
ジェームズも、シリウスも」
額に手を置いてみるけど、幸い熱は出ていない。
首に手を当てても力強い脈動が伝わってくる。
大丈夫だ。
「いいよ。言ってよ、レン」
答えたのは、平静に押さえこんだリーマスの声だ。
きっとたぶん一番動揺していたのだろうけど、彼の場合、まず覚悟が違うのだろう。
彼は年齢に不適当な覚悟を秘めて、ホグワーツに来ているのだから。
「全部を知ってるわけじゃないわ。
私でなくても気づく者は気づく。
そうでしょ?」
「僕たちのように、かい?」
「あなたたちのフォローでそれも極少数だけどね。
満月の頃に必ずリーマスが里帰りするとか、彼が丸いモノを極度に怖がるとか、ね。
知る術はたくさんあるわ」
「それでも普通は気づかないよ」
立って、ジェームズの隣も擦りぬけて、リーマスの前に立つ。
視線が集まっている中、私はその腕を取る。
「私だって気がつかなかったわ。
これを目にするまでは」
ローブをたくしあげると、その腕にはすでに薄くなってしまっているが無数の傷痕がある。
息を飲む声が聞こえたけど、その痛々しさにまず表情が哀しく歪む。
男にしては細すぎて、白い腕に、痛ましい痕。
そっと傷に口を寄せる。
小さく願う。
彼がこれ以上傷つかないようにと。
きっとそれはなんの効果もないだろうけど。
「レンは、怖くないの?」
震える声に顔をあげても、それはとても脅えていて、笑ってしまった。
「はっ!リーマスが怖い!?
有得ないこと言わないでよ」
こんな。
「怖がってるのはリーマスの方でしょ?
私が怖いんじゃない?」
返って来ない答えに微笑んで、その腕を離した。
シリウスとジェームズに向き直ると、二人は少し安堵している。
「俺らだって、怖いはずない」
「リーマスは大切な友人だよ」
「みんな、大切なの。
だから、壊したくはないわ」
こんな事さえなければ、黙りとおすつもりだったのに。
知っている事なんて、話しちゃいけなかったのに。
「言うなら、先に言いなさい。リーマスに。
見てるから」
まっすぐに見つめて二人に言うと、彼等はとっくに覚悟は出来ていたのか、頷き合って、リーマスに向直る。
「僕に秘密にしていた事、だね?」
「ああ」
「完成してから驚かそうと思ったんだ」
恐ろしいほどの静寂があった。
「やって見せる方が早いでしょ。
二人は完成してるんだから」