Information is Money

□5
2ページ/4ページ

 空気がまたひとつ変化して、私は杖を振り上げたままの腕を引いて、肘をシリウスの脇腹に叩きこんだ。
 思いっきり勢いよくいったから、かなり痛いに違いない。

「いや、別に……」
「そうね、それじゃ狼は鹿も食べるのかしら?」

 笑顔が凍りつくというのは見慣れているが、リーマスのそれは少しの罪悪感を伴う。
 それでも、ねぇ、ジェームズには効くのかしら。

「……レン」
「……おまえ……どこまで……知って!?」

 これ以上は、極秘中の極秘。
 関わらせるわけにはいかない。
 私の大切な親友には。

「リリー、ゴメン。
 Stupefy
 (ステューピファイ!麻痺せよ!)!! 」

 急に杖を向けられたリリーはその場に崩れ落ちる。
 ただ人形のように、美しい生き人形のように。

「嘗められてたものね。
 この私が知らないと思っていたの!?」

 ジェームズはもう笑顔を完全に消して、こちらに向かってくる。
 それに目もくれず、私はリリーを抱き上げる。
 リリーに魔法なんて、掛けたくないのに。
 でも、ね、ごめん。
 みんな大切なの。
 今を、守りたいの。

「レン、君は……」
「リリーを、ソファーに運んでくれる?
 この姿じゃ運べないわ」

 すぐ傍に来たジェームズに顔をあげると、ハッとした顔が神妙に頷く。
 どうしてこうなってしまうのかしら。
 もっと上手い方法がなかったのかと、なんど自分に問い掛けても答えは出ない。

 ソファーに横たえた姿にローブをかけて、顔にかかる髪を避けてやる。
 呼吸が乱れている。
 私のせいで。

「レンはどこまで知っているんだい?」

 いらついた声は常のジェームズらしくない。
 それを感じて、何かを言おうとしていたシリウスもリーマスも口を噤んだ。

「言っていいの?
 ジェームズも、シリウスも」

 額に手を置いてみるけど、幸い熱は出ていない。
 首に手を当てても力強い脈動が伝わってくる。
 大丈夫だ。

「いいよ。言ってよ、レン」

 答えたのは、平静に押さえこんだリーマスの声だ。
 きっとたぶん一番動揺していたのだろうけど、彼の場合、まず覚悟が違うのだろう。
 彼は年齢に不適当な覚悟を秘めて、ホグワーツに来ているのだから。

「全部を知ってるわけじゃないわ。
 私でなくても気づく者は気づく。
 そうでしょ?」
「僕たちのように、かい?」
「あなたたちのフォローでそれも極少数だけどね。
 満月の頃に必ずリーマスが里帰りするとか、彼が丸いモノを極度に怖がるとか、ね。
 知る術はたくさんあるわ」
「それでも普通は気づかないよ」

 立って、ジェームズの隣も擦りぬけて、リーマスの前に立つ。
 視線が集まっている中、私はその腕を取る。

「私だって気がつかなかったわ。
 これを目にするまでは」

 ローブをたくしあげると、その腕にはすでに薄くなってしまっているが無数の傷痕がある。
 息を飲む声が聞こえたけど、その痛々しさにまず表情が哀しく歪む。
 男にしては細すぎて、白い腕に、痛ましい痕。

 そっと傷に口を寄せる。
 小さく願う。
 彼がこれ以上傷つかないようにと。
 きっとそれはなんの効果もないだろうけど。

「レンは、怖くないの?」

 震える声に顔をあげても、それはとても脅えていて、笑ってしまった。

「はっ!リーマスが怖い!?
 有得ないこと言わないでよ」

 こんな。

「怖がってるのはリーマスの方でしょ?
 私が怖いんじゃない?」

 返って来ない答えに微笑んで、その腕を離した。
 シリウスとジェームズに向き直ると、二人は少し安堵している。

「俺らだって、怖いはずない」
「リーマスは大切な友人だよ」


「みんな、大切なの。
 だから、壊したくはないわ」

 こんな事さえなければ、黙りとおすつもりだったのに。
 知っている事なんて、話しちゃいけなかったのに。

「言うなら、先に言いなさい。リーマスに。
 見てるから」

 まっすぐに見つめて二人に言うと、彼等はとっくに覚悟は出来ていたのか、頷き合って、リーマスに向直る。

「僕に秘密にしていた事、だね?」
「ああ」
「完成してから驚かそうと思ったんだ」

 恐ろしいほどの静寂があった。

「やって見せる方が早いでしょ。
 二人は完成してるんだから」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ