Information is Money
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ガシャンと鍋を混ぜていたおたまが落ちた。
ずいぶんと大げさなリアクションをするものだ。
「ふふ、昨日さ、大変なことが判明しちゃったのよ。
まさか自分の情報が間違ってるとは思わなくって、驚いちゃった」
「そ、そうか」
「私の情報コレクションは半分趣味なわけよ。
でも、もう半分は」
「自衛、だったな」
「そうそう。
情報は私の最大の武器だもの。
だから、間違っていると困るわけよ」
一歩間違うと、昨日みたいな目に合うのは実証済みだ。
「この際だから、セブルスの情報をひとつ確認させてもらってもいいかしら?」
「私のか?」
「シリウスとリーマスの情報が誤解だったからって、まさかセブルスまでリリーじゃなく、私を好きなんてことないわよね?」
首を傾げるとやっぱりさらりと流れ落ちる髪に、段々と慣れてきた。
セブルスはこちらを見ずに、小さめのグラスに完成した液体を入れている。
色は、私の好きな夕焼の色。
この色を出すのはなかなか難しい。
それを差し出される。
「完成?」
「さっさと飲め」
「流石セブルス。
天才っ」
「良いから飲め」
「はぁい」
グラス越しに見たセブルスは、いつのまにか真っ直ぐにこちらを見ている。
真剣な眼差しは、セブルスをより格好良く見せると思う。
今度教えてあげよう。
目を閉じて、夕焼色のその液体に口をつける。
甘い甘い喉越しは、ほんの少しだけ身体を温める。
やはり酒でも入っているのだろうか。
あの時のような焼けつくような痛みはなく、ただくらくらと意識を溶かされているような気分だ。
ほどよい酩酊感というのはこういうものなのだろうか。
「ふらついているぞ」
「あぁ、うん……」
腕を引かれるままに、彼に寄りかかる。
ローブに染み付いた香りは数種の薬品が混ざり合った匂いなのに、どこか落ち着く気分になるから不思議だ。
「セブ〜」
「先ほどの話だがな」
「ん〜?」
「私はこの姿のレンのほうが安心するよ」
「?」
「そのような誤解をされているとは思わなかったがな」
肩を覆う腕に、力が篭る。
彼の手であげられた私の髪は元の通りの漆黒で、その手に残る一房にセブルスが口付ける。
「私が好きなのは、レン」
それを合図とするように、意識が睡魔に覆われてゆく。
「おまえだ」
まただよ。
この人も、私の本性を知っているはずなのに、どうして?
好かれるような行動をとってきたつもりは全然ないのに。
私にはまだ誰かを特別に好きなんて気持ちはわからない。
わかるのは、リリーが大切で、とても大切で、無くしたくない親友だってことだけだ。
その他のことまで考える余裕はない。
「レン?
眠ってしまったか?」
いいえ、意識はなんだかはっきりしてきたけど、どうにも身体が上手く動かせないわけよ。
かといって、自分の身体を上から見下ろすなんて事態にはなってないし、ただ、動かせない。
自分の身体を動かせない。
て、これって失敗なんじゃ!?
バタバタと複数人の走る音が聞える。
足音は近づいてきているのに、セブルスは気が付いていない。
「レン!?
おい、まさかっ」
「スネイプ、貴様、レンとふたりで何してやがる!!」
教室のドアを勢い良く開けて、真っ先に飛び込んでくるのはやはりシリウスだ。
動け、今、動かないともっと大変なことになるわよ、私!!
「レンは無事!?」
リリーの声だ。
錫の鐘の音が、響き渡るような声に耳が震える。
「スネイプ君、あなた、レンに何をしたの?」
その甘やかさとは対照的でありながら、氷塊石の輝きを放つ声が、私は一番好きだ。
動いて、私の身体!
「ん、なんだ?」
「……リー……ぃ」
もう、少し。
あと、少しで、動く。
「なに、どうしたの、レン!?」
すぐ近くで香るリリーの凛とした匂いが、ふわりと私を囲む。
そうして、また一度力が抜けて、すべてが元通り。
「……リリー……?」
「レン!」
目の前に涙で顔をぐしゃぐしゃにしても美人な私の親友の姿を見て、本当に安心した。
「リリーっ、もう、ダメかと思ったわよーっっっ」
抱き付いて泣きじゃくる私の背中を優しく撫でてくれる。
こんなに安心したのは初めてよ。
「もう大丈夫よ、レン」
「リリーっ」