Teach the Truth

□1
2ページ/4ページ

 目撃情報を探すのは簡単だ。
 シリウスのあの容姿は、魔法族、非魔法族のどちらでも目立つ。
 学生時代もよく人気を集めていた。
 好かれる割にあしらい方を知らなくて、よく逃げまわっていた。

「そのひとなら、昨日……」

 でも、なぜかいつまでも追いつけない。
 そして、決まって誰もがいう。

『その人も誰かを探しているみたいだった』

 誰かって、誰?

『さぁ、なんだか特徴が……あぁそういえば、鼠も一緒に探していたよ』

 ネズミ?

 不思議な暗号のようだった。

 果てしない追いかけっこ。
 私はシリウスを追い、シリウスは……鼠を追っている。
 鼠はもしかして――。

「ハムサンド、マスタード抜きで」
「へ?」
「キュウリとか余計な物なまで挟まなくていい。
 ハムだけ、挟んでくれ」

 礼のつもりで昼食を頼んだけど、店員は不思議そうな顔をしていた。
 レタスまではいいんだけど、ね。
 ハムサンドにほかのものまでは鋏むなんて邪道にも程がある。

 怪訝そうな店員からそれを受け取り、少し余計にチップを払った。

「アニメ―ガス、か」

 人がその身を動物へと変える術、動物もどき(アニメーガス)。
 非合法なそれを学生時代に会得した三人のうち、ひとりは死んでしまったけれど、残る二人は生きている。
 ジェームズは鹿になれた、シリウスは犬に、ピーターは鼠に。
 それは友のためであったけれど、やはり魔法省に登録させるべきだったろうか。

 シリウスが追いかけているのがもし、ピーターだとすると、ピーターがなにかしたのだろうか。
 ピーターも逃げている辺り、なにかしたのだろうか。
 したのかもしれない。
 彼は昔からそそっかしかったから。

 秘密の守人はシリウスだった。
 これは間違いない。
 だが、彼がジェームズとリリーを裏切るとは思えない。
 もし密かに秘密の守人が変更されたら、リリーもシリウスも私に教えてくれないなんてないだろう。
 そうだと思いたい。

 人ごみの中から、不審な人物を発見した。
 絶えず辺りを窺がって、まるで犯罪者みたいだ。
 今時、スリでもそこまでわかりやすくはないよ。

「やぁ、ピーター」

 すれ違いざまに肩に手をかけると、彼は小さな体を震えあがらせた。

「あ、ああ……ミオ?」
「しばらくだったね」
「ぼ、僕……」
「ん?」
「ピーター!!」

 大音量に辺りの空気が震えて、固まるのがわかる。
 視線を向けなくても、誰なのかわかる。
 傍らのピーターがひっ、と小さく声をあげた。
 あきらかに恐怖の混じった声だ。

「ごめん!」

 そして、脱兎の如く逃げ出した。

「あ」

 止める間もなかった。

「待て、貴様!!」
「し、シリウス!?」

 疾風のようにそれを追いかけるシリウスを、私もまた追いかける。
 さっきまでの追いかけっこの縮図のようだ。
 というか、そのものか。

「待て、待ってシリウス!」

 声は彼に届いていない。
 距離がどんどん離される。
 このままだと、置いていかれる。

「シリウス――!!!」

 人にぶつかって、もんどりうって倒れた。
 人ごみに混じってしまって、二人の姿が見えない。
 また、見失ってしまった。

 これで振り出しだ。
 どうして、どうしてあと一歩で何かわかりそうなのに――。

「大丈夫、ミオ?」
「あぁ、別にたいしたことじゃ……ピーター?」

 手を差し伸べてくれたのは、何故かピーターだった。
 小柄なのは変わっていない。
 私よりも小さい身長。
 でも小さく可愛らしい目はあのころよりも輝いているようだ。

「さっきシリウスが追って……あれ?」
「撒いてきたんだ」

 それにしてはえらく早い。
 こんなに逃げ足が早かっただろうか。

「ちょっと怪我してるね」
「へ?
 あーこんなの怪我のうちにはいらないよ」

 かすり傷を心配されるとは。
 しかもピーターに。

「ちょっとこっち来て」

 腕を引く手は、昔よりも強い。
 そのまま路地裏に引っ張っていかれて、空の瓶ケースに座らせられる。

「ぴ、ピーター?」

 とまどう間に、ピーターは杖を取り出して私に術を掛けた。
 カンタンに治癒の術だ。

「どう?」

 得意そうにいわれて、正直返答に困った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ