Teach the Truth

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 慌てたシリウスが私に詰めよる。
 でも、私が入れたんじゃないし。

「んー……五個ぐらい?」

 のんびりと答えるリーマスは、少し楽しそうだ。

「多い!
 ってか、疑問形かよ!!
 そんで、どっちなんだ???」
「あはは。忘れちゃった」

 忘れんなーっと叫ぶシリウスは、じゃあとばかりに紅茶のカップに手をつける。
 一口がノドを通った瞬間に、笑顔で冷ややかな声が紡がれる。

「あ、僕とミオの紅茶は先に砂糖入れてあるよ」
「が……っ」

 シリウス撃沈。
 絶対、今のは確信犯だ。

「いくついれたの?」
「いつも通り、ミオのは3つ。
 僕のは7つ」

 どちらにしても、辛党のシリウスにはきついだろうな。
 ちょっと同情してしまう。

「しかたないから、ミオはコーヒーでもいい?」
「え、どっちが砂糖入れたヤツか本当にわかんないの……?」
「うん」

 あはは。
 その笑顔は本当に絶対に確信犯でしょ、リーマス。

 意を決して、片方をとって口をつける。



 ……………………に、苦っ



「外れ?」
「クジじゃないってーの!!」

 涙目に訴える私を楽しそうに眺めているリーマス。
 なんなのこの人。
 本当に。

「ミオ」

 不意にシリウスに腕を引かれて。
 眼前にその整った顔が近づく。

 自分でも何が起こっているのか分らない。
 ただ重なる口唇が熱くて、痛くて、優しくて。
 深く侵入してくるソレを防ぎきれなかったことだけが生々しい。

「……マジで当たりか」
「な、なに……」
「でも、これで緩和されたろ」

 苦いコーヒーと、甘い紅茶の緩和。
 シリウスは頬を染めて視線を外しながらも、かすかに私を盗み見て、反応を窺がっている。
 でも、リーマスは、変わらない笑顔で、見下ろしている。

「シリウス、ミオの課題は任せたよ」
「おう」

 なんだか、勝手に理解しあっちゃってんですけど。
 勝手に、私の気も知らないで。
 リーマスは、怒ってくれないんだ。

「寝る!」

 羊皮紙も羽ペンもそのままに、私は女子寮のドアをくぐって談話室を後にした。
 リリーとジェームズの呼びとめる声も、呆気にとられるリーマスとシリウスの顔も全部知らない。

 このあとって、どうしたんだっけ。
 たしか、笑ってなかったことにしたんだ。
 それで、誰とも付き合わないって、宣言しちゃったんだ。

 バカだなぁ、私。

 でも、リーマスに誤解されてて哀しかったんだ。

 闇の魔術に対する防衛術なんて、本当は聞かなくたってわかる。
 わからないふりしてたほうがリーマスに教えてもらえるから、そうしてただけなのに。
 実技は手を抜いたことないけど、試験はいつもギリギリで通るようにだけ勉強して。
 私はお返しに魔法薬学教えてあげるの。
 ギブアンドテイク。
 人生の基本よ。
 資本主義の幕開けよ。

 悔しいから、それ以降試験以外の時は手を抜かないで、リーマスを追い抜いてやった。
 追いつけないだろうって、見返した。
 でも、リーマスの笑顔は変わらないままだった。
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