Teach the Truth
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* * *(シリウス視点)
徐々に鮮明になる記憶。
アズカバンの牢獄に入る前から、俺には憎しみしか残っていなかったけれど。
『シリウス!!』
ミオに名前を呼ばれたことだけが鮮明に思い出せる。
ピーターと対峙していたときに、後ろからかけられて途切れた集中。
そのわずかな隙に放たれた卑劣な闇の魔術。
包まれる、光の気配。
ミオの苦しそうな表情。
おぼろげにミオに助けられたのだと悟ったのだけれど、同時にミオの身が心配だった。
あの苦しげな表情が胸騒ぎを教えてくれていた。
何かあったのだと、何かに撒きこまれたのだと。
あの場にいたのならば、きっと俺とピーターに。
梟が飛んで来て、俺の肩に止まる。
手紙はリーマスからのものだ。
ロンドン郊外の小さな森で落ち合おうと一言だけ。
拒否は認めないらしい。
こちらが魔法省に追われていると知っていての行動だろうか。
「よく無事に来れたね」
安堵のため息と共に吐き出される台詞で、俺は人間へとその身を戻した。
「お前がっ来いっつったんだろーがっ!!」
「やー少しぐらい苦労して欲しいからね。うん」
「そらありがとよ。
変わってねーな、その性格は」
厭味を篭めて言ってやると、その表情が翳る。
まだ正体を明かしていなかった頃の、満月近くの頃の表情と同じだ。
「そうかな……そう、かもしれない」
半ば投げやりな調子で言う。
まったく、本当に変わってないな。
「ミオとは結婚したか?」
「へ?」
「まだなのか?」
「なにいってんの、シリウス。
出来るわけないよ」
暗い森の闇に、から元気な明るい笑い声が響く。
いっそ狂ってしまったかのように笑っているのに、親友は透明な涙を流しているように見えた。
実際には瞳に何も光もなかったけれど。
「出来るわけないって、お前らイイ感じだったじゃねーか」
「言ったでしょ、僕は人狼で……」
「ミオが、気にしないって言っただろ」
「闇払いのミオは、結婚できないんだ」
わけがわからない。
闇払いとそれは関係ないだろ。
ミオはリーマスのために闇払いになったんだぞ。
「あの日、ミオは君を追うと言って行ったんだ」
笑いは収まり、静かな声は森に吸いこまれる。
清廉な儀式のように、言葉ははさめない。
「僕は何も知らなかった。
でも君が捕まり、ピーターが死んだ」
「死んでない」
あれはやつのひとり芝居だった。
しかもまた、逃げられた。
そういうと、わずかに苦笑して訂正してくれる。
「死んだとみせかけていなくなった後には、マグルも含めて12人が死んだ」
「俺じゃない……っ」
「そうじゃない。
そうじゃないんだ、シリウス。
死んだのはたしかに12人だけど、怪我人の中にミオがいた」
あの時見たのはやはりそうなのかと、納得する自分が滑稽に思えた。
「どれぐらいだ?
あいつ有望な闇払いだったし、13年も経てば……」
「ちがう、ちがうんだ。シリウス」
「なにがっ」
イヤな予感が迫ってくる。
こんな暗い森でする話じゃない。
余計に不安になる。
「おそらく、事件の直前に別の魔法をかけられた。
僕たちのまったく知らない魔法だ。
闇の、性質の悪い闇の魔法なんだっ」
実感は沸いてこない。
くるはずがない。
ミオがどうして、そんな術にかかる。
あいつは闇の魔術に対する防衛術を誰よりも熟知していた。
俺たちの誰も敵わなかったんだ。
ジェームズさえも、音をあげる腕前だった。
「今、どんな……」
「マグルの病院にいるよ。
生きているけど、生きてない」
「……どういう、ことだ?」
「心臓は動いてるし、目も開ける。
でも、心が空なんだ。
あんなの、生きてるなんて言わないよっ」
衝撃で、息が詰まりそうだ。
リーマスが胸を強く叩いてくるのと、あまりに残酷な現実に。
こんな現実の為に、生きてきたわけじゃない。
どこまで、みんな俺たちの前から奪いさるんだ。
どこまで、俺たちを苦しめる。
死んでなお、俺たちのすべてを――!
13年分の涙を流すかのように、弱音を一気に吐き出してゆく。
いや、13年分ではない。
学生時代からの、自分の本当の気持ちを。