Teach the Truth

□4
2ページ/4ページ

* * *(シリウス視点)

 徐々に鮮明になる記憶。
 アズカバンの牢獄に入る前から、俺には憎しみしか残っていなかったけれど。

『シリウス!!』

 ミオに名前を呼ばれたことだけが鮮明に思い出せる。
 ピーターと対峙していたときに、後ろからかけられて途切れた集中。
 そのわずかな隙に放たれた卑劣な闇の魔術。
 包まれる、光の気配。
 ミオの苦しそうな表情。

 おぼろげにミオに助けられたのだと悟ったのだけれど、同時にミオの身が心配だった。
 あの苦しげな表情が胸騒ぎを教えてくれていた。
 何かあったのだと、何かに撒きこまれたのだと。
 あの場にいたのならば、きっと俺とピーターに。

 梟が飛んで来て、俺の肩に止まる。
 手紙はリーマスからのものだ。
 ロンドン郊外の小さな森で落ち合おうと一言だけ。
 拒否は認めないらしい。
 こちらが魔法省に追われていると知っていての行動だろうか。

「よく無事に来れたね」

 安堵のため息と共に吐き出される台詞で、俺は人間へとその身を戻した。

「お前がっ来いっつったんだろーがっ!!」
「やー少しぐらい苦労して欲しいからね。うん」
「そらありがとよ。
 変わってねーな、その性格は」

 厭味を篭めて言ってやると、その表情が翳る。
 まだ正体を明かしていなかった頃の、満月近くの頃の表情と同じだ。

「そうかな……そう、かもしれない」

 半ば投げやりな調子で言う。
 まったく、本当に変わってないな。

「ミオとは結婚したか?」
「へ?」
「まだなのか?」
「なにいってんの、シリウス。
 出来るわけないよ」

 暗い森の闇に、から元気な明るい笑い声が響く。
 いっそ狂ってしまったかのように笑っているのに、親友は透明な涙を流しているように見えた。
 実際には瞳に何も光もなかったけれど。

「出来るわけないって、お前らイイ感じだったじゃねーか」
「言ったでしょ、僕は人狼で……」
「ミオが、気にしないって言っただろ」
「闇払いのミオは、結婚できないんだ」

 わけがわからない。
 闇払いとそれは関係ないだろ。
 ミオはリーマスのために闇払いになったんだぞ。

「あの日、ミオは君を追うと言って行ったんだ」

 笑いは収まり、静かな声は森に吸いこまれる。
 清廉な儀式のように、言葉ははさめない。

「僕は何も知らなかった。
 でも君が捕まり、ピーターが死んだ」
「死んでない」

 あれはやつのひとり芝居だった。
 しかもまた、逃げられた。
 そういうと、わずかに苦笑して訂正してくれる。

「死んだとみせかけていなくなった後には、マグルも含めて12人が死んだ」
「俺じゃない……っ」
「そうじゃない。
 そうじゃないんだ、シリウス。
 死んだのはたしかに12人だけど、怪我人の中にミオがいた」

 あの時見たのはやはりそうなのかと、納得する自分が滑稽に思えた。

「どれぐらいだ?
 あいつ有望な闇払いだったし、13年も経てば……」
「ちがう、ちがうんだ。シリウス」
「なにがっ」

 イヤな予感が迫ってくる。
 こんな暗い森でする話じゃない。
 余計に不安になる。

「おそらく、事件の直前に別の魔法をかけられた。
 僕たちのまったく知らない魔法だ。
 闇の、性質の悪い闇の魔法なんだっ」

 実感は沸いてこない。
 くるはずがない。
 ミオがどうして、そんな術にかかる。
 あいつは闇の魔術に対する防衛術を誰よりも熟知していた。
 俺たちの誰も敵わなかったんだ。
 ジェームズさえも、音をあげる腕前だった。

「今、どんな……」
「マグルの病院にいるよ。
 生きているけど、生きてない」
「……どういう、ことだ?」
「心臓は動いてるし、目も開ける。
 でも、心が空なんだ。
 あんなの、生きてるなんて言わないよっ」

 衝撃で、息が詰まりそうだ。
 リーマスが胸を強く叩いてくるのと、あまりに残酷な現実に。

 こんな現実の為に、生きてきたわけじゃない。
 どこまで、みんな俺たちの前から奪いさるんだ。
 どこまで、俺たちを苦しめる。
 死んでなお、俺たちのすべてを――!

 13年分の涙を流すかのように、弱音を一気に吐き出してゆく。
 いや、13年分ではない。
 学生時代からの、自分の本当の気持ちを。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ