Tea Party
□スィートなお茶会
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肩を捕まれて、顔を覗きこまれる。
その目にわずかに非難の色を見止めるのが怖くて、視線を逸らす。
でもきっと、たぶんいつもの笑顔を浮かべているのだろう。
「先生がいないから。
死んでんじゃないかと思って」
「ちょっと出掛けていたんだよ」
小さな笑い声で顔をあげると、後頭部というか首から耳の後ろあたりのあいまいな部分に1本の銅線でも詰められたような痛みが走った。
ものすごく痛いけど、それもこれもこの男を見上げようとしたせいだから、何だか非難したくもなる。
心配して来てやってるというのに、それも専用に甘い菓子まで作って。
「今日は林檎?」
籠を持ってくれて、チカの手を引いて歩き出す。
さっきの人も気になるけど、しかたないので小走りになりながら後を追いかける。
「そーなの。
隣の家にすんごい沢山送られてきてね。
お裾分けもらったから先生にも」
玄関をすんなり開けて、いつもの部屋に通される。
さっき見たばかりだが、窓から見えないところには新聞まで散らばっている。
いつもながらとんでもない部屋だ。
これで他よりもマシというのだから、他の部屋はどうなのだろう。
「テーブルの上、適当に退けていいよ」
ここまで散らかっていると片付けるのもイヤになりそうだが、この中でおやつもいやだ。
「その前にここ、片付けましょうよ」
「食べてからね」
実に楽しげな声であるところからして、もう彼の意識は今日の林檎パイに移っているようだ。
仕方ないので、とりあえずいつも通りに窓を開ける。
ここの窓は立て付けが悪いのか、いつもガタガタいって、それでもなかなか開かなくて、リーマスが紅茶を持って入ってくると、急に開くのだ。
「ごめんねー立て付けが悪くて」
「いいええっ先生のせいじゃありませんからっ」
これも壊れそうな椅子の上から新聞をそっと避けて落として、その上に静かに座る。
なんというか、乱雑に動くと埃が立ちそうなのだ。
この家は。
「はい、砂糖はいらない?」
「自分でやります」
差し出されたカップを慌てて受けとると、声を立てずに笑いながら、リーマスはソファーにどかりと座った。
意外にも埃は立たない。
「しかし、いつにも増して……あ、食べてていいですよ。
いつも以上に散らかってますね」
何も言わずに籠から取り出して食べ始めてしまうリーマスに、一言いって、チカも紅茶をすする。
下手な紅茶専門店よりも美味しいのだ。
これを飲む為にケーキを作ってくるといっても過ぎたことではないだろう。
「んんん〜美味しいっ」
「チカのケーキもいつもながら絶品だね」
「そーでしょ?」
飲み終えてしまうと、もう2杯目が用意されていたり、結構気配りのきく人である。
いや、チカが人より気配りが足りないとか、そんなんじゃないけど、この人の場合は余計に。
「どこ出掛けてたんですか?」
「ちょっと友人の家まで」
「へ〜近いんですか?」
「そうだね。
姿あらわしを使えば簡単だよ」
「へ〜ぇ」
姿あらわし?なんのことだと思いながら、自分の持ってきたパイに手を伸ばす。
――あぁ、我ながら一口が限度だ。
このストレートの紅茶がなければとてもじゃないが食べられない。
「二人じゃ多すぎましたね。
やっぱり」
「そうかい?」
これを普通に食べられるあなたは別な意味で尊敬にあたります。
それでその細さだ。
一体どういう作りをしてるんだか。
「次からはもっと多めでも大丈夫ですか?」
ふと、いろいろ含ませて言ってみる。
「そうだね、チカのケーキは美味しいから毎日でも食べたいよ」
なんの気もなく返される。
「主食で?」
「それでもいいかもね」
ほんとうにこの人のどこにそんなに消えてるのかな。
「先生みたいな人は特殊だからいいでしょうけど、同居人の方にはきっついんじゃないですか?」
いってから、一気に紅茶を飲み干す。
それから視線を戻すと、彼にしては珍しくとても珍しい拒絶的な笑顔を浮かべている。
「同居人?
ここには一人で住んでるよ?」
とぼける気だろうけど、そうはいかない。
二人分作るからには、それなりに調整もしなければならなくなる。
なにより、ここでリーマスに紅茶を入れてもらう為には、その同居人に嫌われるわけにはいかない。
「私を、ごまかせるつもりですか」