Tea Party

□スィートなお茶会
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 あわわ。
 そんなつもりで来ていたつもりは毛頭ないのですが。

 先生は先生で、私は美味しい紅茶が飲みたいから、アナタ好みのケーキを焼いて来ていただけなんですー。

「チカ……?」

 ぎゃーっ、こ、こんなに男の人に近寄られたことないんで、精神的にパニックです。
 パニックとはパパのニックネームのこと。
 て、ちがーう!!

「先生……っあのっ」
「あぁ、やっぱり君からも甘い匂いがする」

 そりゃ半日もケーキ焼いてりゃ匂いも付きますよ。
 でも、今ここでそれを言いますか!?
 耳元で囁くと、あなたの声は殺人的って言われたこと、ないですか?

「っまだ、ケーキ残ってますよ!?」

 辛うじて、悲鳴のように言い返すと、近かった気配が離れて、光が間に割り込んでくれた。
 でもまだ油断は出来ない。

「別に襲わないよ?」
「ぇ!?」
「まだケーキ残ってるしね」

 くるりと踵を返して、テーブルに戻る姿を見ながら、そっと肩を撫で下ろした。
 ケーキなかったら襲う気だったんですか、先生。

「チカもそんなところにいないで、紅茶をもう一杯どう?」

 なにか言い返そうと思ったが、なんか疲れてしまった。
 くすくすと楽しそうに笑っているところからして、からかわれたのかもしれない。
 こういう悪戯を好きな人なのだ。

「いただきます」

 チカは紅茶を飲みに来てるのだ。
 紅茶を。
 別に餌付けに来てるわけでも、口説かれるために来てるわけでもないです。

 それから、いつもどおり当たりさわりのない世間話をして、午後はゆっくりと過ぎていった。
 こののんびりとした時間の為に、日々過ごしていると言っても過言ではない。
 美味しい紅茶と、美味しいケーキと、のらりくらりと過ごす時間。

「また来週も来ていいですか?」

 そう聞くと、驚いたように目が見開かれ、本当に安心してリーマスは微笑んだ。

「ありがとう」

 ゆったりと過ごす時間は、止まりそうだがゆっくりと移動していく。

「同居人は、甘いものは?」

 もう一度聞くと、彼はくすくすと笑う。
 そんな笑顔は悪戯の響きを帯びていて、面白いと思う。
 半分は彼の本質がでているからだろうか。

「あれ?
 アレには、そうだね。
 ドッグフードとかその辺でイイと思うよ」
「へ?」
「たまに鶏肉とか」
「あぁ、いつも先生が値切ってるヤツ」
「……知ってたんだ」
「チェルが笑ってました」

 友人の名前を出すと、微妙に笑顔に影が落ちる。
 いつも笑顔なのに、どうしてこうも表情があるんだろうと、少し不思議に思った。

「そうだね。
 チカ、今度から先生じゃなくリーマスって呼んでくれない?」
「ヤです」

 キッパリと言いきると、やはりどうしてと聞き返された。

「言い慣れちゃいましたもの」
「紅茶のお代わりいらないの?」

 うぬ〜っ、紅茶を盾に取るとは卑怯な!

「リーマス……」

 差し出されたカップにはすでに紅茶が入っている。
 早技だ。
 見えない。

「……先生」
「言い慣れればいいんでしょ?」

 懲りない人だ。

 ぼんやりとしていて、掴み所がないけれど、思った以上にクセモノな人みたいだ。

「で、同居人の方は甘党?
 辛党?」

 そして、私も懲りません。

「どっちにしようかなー?」

 楽しそうにリーマスはケーキを頬張っている。
 どうしよう。
 やはり、本人に聞くのが一番じゃないだろうか。

 乱雑した部屋の中で、チカは子供みたいに無邪気に美味しそうにケーキを食べる男を見て、ため息と笑いが同時に零れてしまった。
 考えたことはないけど、別に嫌いでもないし、少しこの男のことも考えてみようと思う。
 世界一美味しい紅茶を入れてくれるというだけでなく。

 しかし、返答を聞かないところをみると、答えはいらないのだろうかといぶかしむ。
 告白したかっただけ、なのだろうか。
 それはそれで、あんなことをされて、どうしろともいえないが。
 返事はするべきだろうか、しないほうがずっと紅茶を飲めるのだろうかと、笑顔で話しながら悩んでいた。

 先ほどの扉の向こうで、彼の友人という人がハラハラとしているとは夢にも思わずに。
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