Tea Party

□ノスタルジィなお茶会
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 いつもと違う点といえば、窓がすでに開いていて、すごく風通しが良いという事。
 それから、目の前に座るこの男が、ひどくおなかを空かせながら、怒ったようにふてぶてしくソファーにふんぞり返っている事。

 光の下で見たその人は黒というイメージしかなかったけれど。
 明るい室内でマジマジと観察すると、黒い髪をやはり切るのがめんどうで伸ばしてあるようで、骸骨みたいだと思った顔もやや肉はついている(あたりまえだ)。
 きちんと栄養をとれば別人というか、けっこう俳優とかそういう類になるんでないだろうか。

 追われてるっていってたし無理だろーけど。

「あの、さっきはありがと、ございました」

 小さく礼を言うと、驚いた視線だけが向けられ、それも一瞬のうちに逸らされる。
 こっちは礼を言ってるというのに。
 多分にこの人の受けた損害のがでかいのだからしかたないとも思うが。
 それでも、どーいたしましてーぐらいは言ってもいいんでないかい。

 会話するに出来なくて、机に置いておいた籠からサンドイッチとワインとタルトを取り出す。
 今日もまた、この散らかった部屋でお茶か。
 別にイヤなわけじゃないんだけど、でも、やっぱりこの天気で室内でお茶って、むなしい気がする。
 ふと視線をあげると、不機嫌そうに座っていたシリウスが慌てて視線を逸らしている。
 平静を装ってはいるが。

「食べます?」
「いい」

 即答だが、無理をしているのは一目でわかる。
 追い討ちをかけるように、空腹の音が部屋に響き渡る。

「今の……」

 風で揺らされる髪をめんどくさそうにかきあげて、誤魔化しても無駄です。
 この私にわからないと思ってるんですか。
 昔っから、勘だけは鋭いって言われてるんですから。

「シリウス、でいいですか?
 先生の古い友人さん?」

 今度こそ向けられる驚愕の瞳に、チカはにんまりと笑顔を向けた。

「おまえ……」

 声に強い怒気と警戒の色を見て、慌てて付け足す。
 そうは見えないだろうけど。

「さっき、そう呼んでましたよね。
 先生が」

 3人分のカップを用意してきたリーマスが、苦笑を漏らす。
 そのいつもの響きで内心で安堵した。
 あの怖いのはそうそう見たくはない代物だ。
 できればもう一生。

「チカを苛めてないだろうね?」

 やんわりとナイフで突付くようなマネは止めた方がイイですよ。
 さっきからこの人に対する扱いがひどくないですか。
 先週のあの時も思ったけど。

 受けとった紅茶は今日も最高で、目の前のことも何もかも忘れて、一瞬意識が飛んだ。
 いつもながら、絶品だ。
 いうなればリーマスブレンド。
 あーでもいつか飲めなくなるかもということを考えたら、淹れかた聞いておいた方がいいだろうか。

「ねー先生ー?
 ……先生?」

 視線を戻すと、怯えるシリウスと無言でケーキに齧りつくリーマス。
 年は二人とも同じくらいだろうか。
 しかし、この微妙な力関係はいかがなもんだろう。

「今日も美味しいタルトだね」
「先生の紅茶も絶品ですよ」

 笑顔につられて、いつも通りに返しかけて、気がつく。

「じゃなくてですね、先生」
「君も食べるかい?」

 リーマスが一切れを差し出すと、目に見えてシリウスは口元を抑えて、首を高速で振っている。
 これは、どうやら甘い物が全然だめだということだろうか。
 それじゃーここでまともな食事は望めない。
 甘味大王と暮らしていたら。

「おいしーのに」

 作ってきておいてアレですが、私もあんまりその量を食べたくはないです。

「どうして先生はそんなに怒ってるんですか?」

 なんで二人で怪訝そうな目を向けるんですか。
 あ、わざとらしくため息なんかついて!

「チカ、君は記憶力がいい方だと思うんだけどね?」
「もちろんですよーおかげでいろいろ面倒に巻き込まれたこともありますしねー」
「そうじゃなくて」

 見かけに寄らず苦労人?とか思ってるんでしょね、シリウス。
 あなたは見るからに苦労しているみたいだけど。

「その記憶力を持ってしてもここの本の名前は覚えらんないんですけどねーなんででしょうね?」

 別にそれほどの本好きだとは自分で思ってはいない。
 むしろ美味しいケーキを作ったり、美味しい紅茶を飲んで、楽しく話しているだけで幸せなのだ。
 こう考えると、自分の幸せってずいぶんお手軽だなーとチカは苦笑した。

「だから、最初に言わなかったっけ?」
「魔法使い――でしたよね?
 覚えてますよーうさんくさかったもん」

 最後の一語に苦笑が返ってきて、二人で笑いあう。
 それをシリウスが理解できないというように頭を抱えているようだった。



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