短編集2

□視線を辿れば
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視線を辿れば


既に回答の記入は終わっている。
残り、どれほどの時間が余っているのかと思い視線を左手にやれば、まだテスト時間が30分も残っていることがわかった。
問題用紙は両面印刷であり、これでは時間つぶしに落書きすらできないじゃないか。
そんなことを胸中で呟きながら手元を見ているとふと視線を感じる。
自分の後ろ・・・いや、正確には斜め右後ろからだろうか。
クラスメイトの名前もろくに言えないだけに、現在自分斜め右後ろ側に誰が座っているのかも分からない。
テスト時間が余って手持ち無沙汰だからだろうか、普段は他人の視線などに興味がないのに、こその視線を辿って誰にたどり着くのか確かめてみたかった。
だが、今はテスト中。
例え回答を終えたとしてもそれは変わらない。
気になるのに振り向いてはいけないもどかしさが苛立ちを呼び起こす。
この野郎・・・なに見てんだよ!
気になってしまう心を止めることができない。
今、視線を投げつける奴がこの忌々しいモノを外してくれれば楽なのに・・・。
もやもやが充満する心はどんどん膨れ上がる。
ふと、視界の端を何かが横切ったような気がした。
一番窓側の座席なので窓の外を見てみれば、数羽の鳥が飛んでいた。
ここは二階なので、結構低いところを飛んでいるな・・・と思ったとき数羽の中の一羽の羽がキラリと光ったような気がした。
今のは何だ?
目を凝らして見ても、眩しい日差しを反射する羽の上の存在を確認することはできない。
気がついたらその一羽だけを目で追っていて、他の数羽は気がついたときにはいなくなっていた。
背を輝かせている一羽だけが、何度も何度も同じところを飛び回っている。
じっとその様子を見ながら思った。
・・・この鳥はオレの視線が気になるからここに残ったのだろうか?
飛んでいる鳥から見て窓の内側には数え切れないほど多くの生徒が座っている。
その大多数の中から視線を送っているものが誰なのかを知るために、一羽だけになっても飛んでいるのか。
俺はこの鳥の奇異な部分に思わず視線を奪われたが、今俺に視線を送っている奴も、もしかしたらそうなのかも知れない。
180度の視界に映り込んだ気になる対象を見てしまうのは抗うことのできない欲求である。
テストが終わったら、俺に視線を送っていた奴を確かめよう。
そしたら、そいつが羽ばたく鳥の変わりになるかもしれない。


END

2012.9.21





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