長編

□<19>
1ページ/6ページ


Goodbye10年の片恋
19、次間違えたら鉄拳制裁よ


サクラは目の前の男を殴り飛ばしたい気持ちで一杯だった。
長年付き合いがあって、その中でも見たことがないような深刻な表情をしているが、
師匠譲りの拳で本気でぶん殴ってやりたいと思った。
自身の塊が服を着ているような彼が項垂れている姿を哀れに思いはするものの、
それは自業自得であり、逆に腹たたしく感じる。
「あのこはもっと辛かったのよ!」「あんたが受けたショックよりも数千倍辛かったんだから!」と思いっきり叫んでやりたかった。
だが、ここでそんなことを言っても、今は自分の心の殻に閉じこもってしまっているこの男には伝わらないだろう。
それ以上に彼女の気持ちを考えると、たった一つの叫びで解消できるほどの想いではないはずなので叫びたい気持ちも上手くとどめるしかなかった。
衝動のような一時の気持ちで彼女の大切な気持ちを汚してしまうのは避けたかったのだ。

「で、サスケ君は私になんていって欲しいわけ?」
「・・・・・・」
「はっきり言って、私はサスケ君のことを残念な気持ちでしか見れないわよ」

そう。
例え初恋の人だったとしても、今回の所業は”哀れな姿を晒した”程度のことでは許せない。
それほどまでに、サクラは撃沈しているサスケからの告白に憤りを覚えたのだ。

サスケが他国に任務に出てたことを知らなかった。だが、肝心なのはそこじゃない。
一人暮らしの、さらに妙齢の女の部屋に深夜に訪れたサスケの格好は正に任務帰りだった。
指定された黒い中着と緑色のジャケットは埃で色が霞んでいるし、髪は乱れて色男は台無しである。
さらに、その表情が信じられないくらい無表情で、しかし悲しそうに見えて。
今にも死んでしまいそうなくらい思いつめた表情をしているサスケを『夜中にアポなしでたずねてきた。しかも汚い』という理由で追い返す気にはなれなかった。
もしかしたら、”あのコ”が関係しているんじゃないかなとは思ったものの、それは確信ではないしサクラから話を切り出すことは出来なかったが、
しかしサスケから次々に吐き出される事実と心情を耳にしたとたん、どすぐろいモノがサクラの中に這い出てきたのだ。







.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ