□第零話
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鈍い色した月が、晋助が見上げると雲間に隠れてしまった。
それが何だか無性に悲しくなって、目玉の無い片目を触る。

あの男に抉られたここに、あまり痛みは感じない。
胸に何か引っかかって取れない。そちらの方が痛い。

この世界は彼女が消えると終わり、そしてまた始まる。
彼女が現れるまでの何十年何百年を待ち、そして出会う。
出会っても童話のようにハッピーエンドにはならず、
血生臭さだけが残る。

執着しているのだろう、しかしなぜ?
出会いはいつのことだったかと、昔話に思い耽る。
あの、初めて出会ったあの時、あの時をやり直せるのなら。
銀時やあのガキに会わせることなく、うまくやってみせるのに。


顔を出した月が、血のような椿を照らした。










「おい総悟、って、また花か?」


「……この花の近くでそれ吸うの、やめてくだせーよ死ね土方」


「おいテメ!最後ぼそっと何言った!?」


あぁ煩いと、雪化粧した椿をそっと撫でる。


「あ」


そっと、優しく撫でたはずなのに花はぼとりと、無残に土の上に落ちる。
土で汚れた椿に、殺意が湧く。


「大体、屯所で椿なんざ育てんじゃねぇよ。
椿ってのは、昔っから縁起悪いって言われてんだ」


「あーあ、土方の首もこんな風に落ちてくんねーかなー」


「上司なんですけど、俺」


縁側に立ち煙草をくわえている十四郎を一睨みし、
首がもげるように落ちてしまった椿を拾う。
赤い椿が雪に濡れ、そして土まみれ。
可哀そうな可哀そうな椿、守ってあげなければまた首を落とされる。



見上げると、青空に飛行機がとんでいた。









「おいおい、マジでここで次回に続くだと?
ふざけんのもいい加減にしろよ……」


銀時しかいない万事屋に空しく声が響くと、溜息をついて
ジャンプをテーブルに置く。
あの二人は確か、料理教室に行くと言っていたなと、カレンダーの日付を見てあくびをする。


「あ、枯れてきてらァ」


ご近所のおじいさんに頂いたんで、お裾分けわけですと椿の鉢植えを
持ってきた新八に、また椿かと気が重くなる。

枯れてきている赤い花が、こちらを見てほほ笑んでいる。


「おめーさんよ、名前はなんてぇんだい?」


答えない椿に苦笑い。


「今度は、死なせはしねえよ。安心しな」


茶色くなった花に口付けし、ソファに寝転ぶと久しぶりにあの人の夢を見た。



第二章 開幕
永遠の輪の彼方に、あなたを見つけました。

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