□第一話
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第二章 一話





「総悟……」

雪降る中、花を愛でる総悟を呼ぶのは、近藤 勲。
荒くれ者どもが集まる真選組を纏める、男の名だ。
その男が、女に振られたからといってこの様で総悟は、はあ、と溜息をついた。


「一回や二回振られたからって何だって言うんですか、
そんなんじゃいつまでたっても報われませんぜ」

三角座りをし、膝にいかつい顔を埋める上司にまた溜め息。

赤い花に鼻を近付けると、その芳しい香りに目眩がする。



自然と溢れたその言葉達は、絶望なんてしていられないと己を奮い立たせた。




「今度は、俺の番」


「ん?何か言ったか総悟」


部屋の隅で縮こまっていた勲が振り返ると、その頬には滝の様な涙が流れている。
よくもまぁ、そこまで感情を露わに出来るものだと感心していると、その彼の顔がぐにゃりと歪む。



「あぁ、またかィ。
何回死ねば気が済むんだ、あの女」


勲だけではなく、屯所が、江戸が、世界が、渦を巻くように歪んでいく。
音はなく、冬の冷たさも椿の香りも何もない。
ただ、暗闇が広がる空間に響いた総悟の独り言は、よく響いた。














ピピピと、甲高い電子音が部屋に響く。
重い瞼を持ち上げると、そこには住み慣れた自室。


遮光カーテンの隙間から外の光が洩れていて、雀がちゅんちゅん鳴く声が聞こえる。

「さむ……」


羽毛布団に、ふわふわの毛布を肩まで掛けていても、真冬の寒さには勝てない。
枕元に置いてあるリモコンで、暖房の電源をオンにすると、温かい風がたちまち部屋に広がる。


腰を上げ、カーテンを開ける。
眩しい光が花を照らし、霞ませる。


二階の窓から見える風景を見ていると、何だか不思議な気持ちになった。
どうしてだろうか、今まで、何か大事なものを――

「花ー?起きてるの〜?遅刻するわよ」


一階から母親の声が聞こえ、寒いのは我慢してベッドから出る。
就寝用のもこもこソックスを履いていたおかげで、氷のように冷たいフローリングの攻撃を回避できることに成功する。


「起きてるー!」


髪を梳く為に鏡を見ると、鏡の中の花が泣いた気がした。








「朝早くからずっと男の子が待ってるんだけど……。
花のお友達?あなたの学校の制服なんだけど」


「……。知らないよ?」


一瞬、ほんの一瞬なのだかフラッシュバックのように
見えた映像に、食べていたトーストを皿に戻す。


『花』


映像の中で誰かに名前を呼ばれた気がしたが。

誰?
……まぁ、私には関係ないか。


変な夢でも見たからだろうと、食べかけのトーストを齧る。
出された朝食をすべて食べ終えた頃には、男の子の話などすっかり忘れていた。














玄関を出ると、あまりの寒さに背筋に悪寒が走る。
庭に植えている椿が雪化粧していても寒そうなだけで、綺麗とは感じない。


「椿、綺麗だと思わねーかィ?」


「……えっと」


マフラーを巻き直していると目の前に現れた男に、
さっきお母さんが言っていたのはこの人か、しかしなぜここに?
と、疑問に思っていると男はくすりと笑う。


「あ、また忘れた?」


銀魂高等学校の制服を着た男は、人の家の門戸を開けると、こちらに手を差し出す。


「学校行こうぜ、遅刻する」


ごく普通に笑顔でそう言われたものだから、何となく手を取ってしまう。
男の手は氷のように冷たく、いつからここにいたのだろうと、
約束をしたわけでもないのに、悪いことを思い謝る。


「ん?あぁ、別にいいぜ、慣れてるし。
それにそんなことどうでも良いくらい、今回の俺は幸せだしねィ」


二世なんだ、こういうのって。
そう言って笑う男の言っている意味がわからず首を傾げると、ますます笑う男に花は頭を悩ませた。

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