□第二話
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朝。
いつもの朝が始まると、手にした教科書を鞄に入れる。


とても仲の良かったクラスメート達が、あの日を境に
花を無視するようになった。

最初は、勘違いだと思った

おはようと挨拶しても返事はなく、
移動教室なので席から立つと、そそくさと教室を
後にしてしまう。

お弁当もいつも一緒に食べていたというのに、
彼女が座る席は用意されていなかった。

クラスメイトと入れ替わるように現れた、
沖田総悟という男。
銀魂高校で問題児ばかりを集めたクラス、
Z組の生徒。

話したこともないのに、ある日突然一緒に
登校するようになり、今では何をするにも
総悟が隣にいる。


彼女たちが離れていったのは、総悟のことだろうと
最近、ようやくわかった。
異性にはあまり興味のない花は総悟がどんな
人物なのか知らなかったが、かなりの有名人でファンクラブ
なるものがあるという。

それを教えてくれたのは、同じくZ組の志村 妙という美少女。


あなた、厄介な人に好かれちゃったのね。
離れるなんて考えるのは、おやめなさいな。

あの人異常だから。










夕方

赤い空を見て花は、とても不安な気持ちになる。
夕暮れは好きだ。
青い空がどんどん赤く染まるその様は、見ていて飽きない。
しかし総悟が現れたからの夕暮れは、まるで血の色だった。

となりには総悟。
昔々から花を知っているかのような口調に、
何だかじりじりと首が痛くなる。


「今度は俺の番、どんなに待ち望んだか!
あんたにその気持ちがわかるかィ?」


「沖田君の言っている意味、よくわかんない」


そう言ってやれば、くすくす笑う。
頭が狂った男といる時間が長くなるほど、
花の周りには誰もいなくなっていったけれど。

それくらいのことで離れてしまうのでは、友達解消しても
よかったのではと、ポジティブに考えるようにしている。

そうしなければ、落書きされた教科書や隠された靴。
その他もろもろを見過ごせない。
なかったふりをして勉学に勤しむのは、そうたやすくはない。


「女ってどうしてこう、陰険な生き物になっちまうんでィ」


赤いマジックペンで無残に落書きされた教科書を見て、
総悟は呆れたように肩をすくめる。


「沖田君が離れてくれたら、こういうこともなくなると思うけど」


「はぁ?あんたって、単細胞。そんな簡単なことじゃ
ねーだろィ。それに」


総悟が、花の肩に顔を埋める。
くんくんと匂いを嗅がれるのは、気持ちのいいものではない。


「お、沖田君やめてよ!……いっ!?や、やめ」


総悟を押しのけようとした手をぎゅっと握る力は相当なものだ。
痛みに顔を歪めると、にこっと笑う男に背に寒気が走る。


「恋人になりゃ、全てが手に入るとか。
結婚して夫婦になれば永遠をなんて、そんな夢みてぇなこと
考えやしねェ」


教室の、一年に一度しか洗わない不潔なカーテンが、
風に揺れる。
二人だけの教室はだけど、どこかに批判的な視線が隠れている。

すぐそばにある体から、鉄棒を握った後の掌の臭いがする。
この人は一生、この臭いから逃れられないんだ。
そう思うと、何だか無性に泣けてくる。


一人真っ暗の部屋で縮こまり、永遠をそこで過ごすことしかできない
彼の運命を変えるのは、彼の意志だけ。
総悟が外に出たいと思わなければ、依存を切り離すことはできない。


「ただ、傍にいることくれぇ、認めたっていいじゃねーか。
――姉さん。」

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