リク文字

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なんだか広間が騒がしいなとは思っていた。

ぎゃあぎゃあと争うような声と共にばったんばったん変な物音、声からして飛段さんとデイダラ君。
あの2人は精神年齢が近いのかなんなのか。よく一緒に騒いでいる所を見るので今回もそんなことだろう、と広間をひょこりと覗けば。


「てめえ、男は黙って肉食えばいいんだよォ!」

「そう言って昨日も肉だったじゃねぇか!芸術家ってーのは食でインスピレーション働かせ、おい力ずくはやめろおお!」


…何を、しているんだろうか。


わけが分からないのでとりあえず見たまんまお伝えしようと思う。

飛段さんが肉汁滴るスペアリブを手でがっしと掴み、それをデイダラ君の口元に押し付けている。
飛段さんはぐぬぬと顔を顰めながらなんとかスペアリブを食べさせようと奮闘していて、それに対してデイダラ君は嫌そうに顔を歪め顔を背けスペアリブを食べようとしない。

また、何の遊びだろうか。わけが分からず二人に近付いていけば。


「あっ、あかね!助けろ!うん!」


真っ先にデイダラ君が私に気付き命令口調でそんなことを言った。
いきなり助けろと言われても、しかもそんな偉そうな態度。ぼけっと眺めつつ「どうしたの?」ととりあえず聞いてみれば。

今度は飛段さんが私に視線を向けた。


「あかね!手伝え!」


手伝え、て。私の質問には答えずそんなことを言われたためきょとんとするしかない。
なに手伝えって。そのスペアリブをどうしたいの、デイダラ君に食べさせたいの。どっちにしろわけが分からない。

私はもう1度二人に強めの口調で「だから、何してんの」と聞く。ああ、スペアリブの肉汁がぽたぽたと、汚いなあ。


「こいつが俺の肉食わねえんだよォ!失礼だろ?せっかく俺が買ってきたってのに」

「ちげえって!昨日もこれだったんだよ昼飯!オイラはおでんのばくだん買ってこいっつったのに!」


わいわいがやがや。必死な顔して主張する2人の話に、どういう反応をすれば良かったのだろう。

俺の肉食わない?おでんのばくだん?なんのこっちゃ。とは思ったもののすぐに任務で鬼鮫さんが不在なのを思い出す。
昨日からイタチさんと鬼鮫さんは任務に出ていて、いつもお昼ご飯を作ってくれる鬼鮫さんの姿がどこにもないのだ。だから私も適当にお弁当を買ってきて済ましていたのだが。


「いいなあスペアリブ。美味しそう」


分厚い肉の固まりは私にはとても魅力的に見えて思わずそう呟けば、飛段さんはデイダラ君を押さえつけていた手をばっと放し私を見てきた。
その顔は先ほどまでの顰めっ面とは違いぱあと輝かんばかりの下品な笑み。にやにや、と恐らく嬉しそうな顔をしているんだろうが、彼の場合にやつきにしか見えない。


「だろ?!美味そーだろ?!」


そうだね、とても美味しそう。ただ飛段さんの手掴みだけが、ちょっと。

そう答えたものの後半は聞いていないのかスルーしたのか、飛段さんは嬉しそうに笑うだけだった。
しかしここでデイダラ君が目をかっと開き半ば私を睨むかのような目付きで見た後ずかずかと私の方へとやってきた。
大股でぎんぎんとした目に、え、なにと戸惑っていれば彼は私の前までやってきて肩をがっしりと掴んだ。痛かった。


「なんだよ!お前まで肉派かよ!」

「肉派?」

「おでん派だろ!おでんのばくだん派!うん」

「……」


おでんのばくだん派?


「……」

「ばっかデイダラちゃん。やっぱ肉なんだよ、肉」

「肉もいいけど、おでんのばくだんには敵わないな。うん」


…あぁそう言えば、デイダラ君はおでんのばくだんが好きだったな。一方飛段さんは大の肉好き。
どうやらお互いの好物のことで争っているようで、2人はまた言い争いを始めている。
飛段さんが油でぎっとぎっとの手でまたスペアリブを掴みデイダラ君を指指しているためますます汚らしい。

一体何を騒いでいるかと思ったがそんなことか。相変わらず精神年齢が低いことで、言葉にするとまた面倒なことになるので内心だけに留めておく。


「食べればいいじゃん、せっかく買ってきてくれたんだから」

「いや、なんか違うんだよ。うん」

「なにが」

「肉じゃねえんだ、今日は。ばくだんじゃなきゃ駄目な日なんだよ」


わけ分からん。


「だいたい飛段。てめえ野菜食えよ。肉ばっか食ってるから馬鹿になるんだよ。うん」

「ヤサイー?んだそれ」

「これだよこれ。ほら、食えって」

「くっせ!くせえよこれ!」


デイダラ君は苛々したような表情で飛段さんに何か渡した。あれは、あれだな。ドクダミ。どこにでも生えているくっさいやつ。

野菜でもなんでもない雑草を飛段さんは受け取りくんくん嗅いだ後ぽいっと捨てた。正しい選択、ドクダミ食う程馬鹿でもなかったか。


「野菜とかまずいじゃねえか」


いや違うか、単に野菜嫌いなだけか。

まったくこの人たちは、悪名高き暁だとは思えない程の低レベルな喧嘩にこっそりため息をつく。


「ていうか肉派とおでんのばくだん派って」

「なんだよ」

「肉派と魚派とかなら分かるけど、おでんのばくだん派…」


なんだか極端に遠いわけでもなくかといって近いわけでもない2つの食べ物。派、という括りにしていいのかという疑問はあるが彼らはそれについてまったく疑問を持っていないらしい。

私の言葉にきょとんとした表情を浮かべるだけだった。まあいいけどね…別に。
私はどっちも好きなのでこんなことで争う彼らのことなどくだらないの一言に尽きるのだが、これを言ったら機嫌を損ねることになりそうだ。

それ以上は言わないようにして飛段さんが今だ持つスペアリブに視線をうつす。…うわあ。


「どうでもいいですけど、飛段さん。そのスペアリブ…」

「仕方ねえ、口開けろ」

「食べたいだなんて言ってません食べる気しません。いつまで持ってるんですかそれ」

「いつまでって、デイダラちゃんに食わせるまで?」

「だからいらねえって!うん」

「じゃああかねに」

「いらないです」


スペアリブは好きだけれども、飛段さんの手が脂でぬめぬめ光っているのを見るともはや食べる気がしない。
デイダラ君もこんなものを食う気はしないだろう。おでんのばくだんが食いたいだとかそういう理由を差し引いたとしても、飛段さんの手に掴まれたスペアリブなんて。

しかし私たちの態度が気に入らなかったのかなんなのか。飛段さんはすぐさまむっとした表情で私たちにじりじりと近付いてくる。
なんか近付いてくる、うわ、と思いながら私たちもじりじりと下がっていく。


「お前ら…」

「いやいや、だって飛段さんの手で…汚いじゃないですか」

「あー、オイラは自分で買ってくるとするか、うん」

「え、わざわざ買ってくるの?」

「芸術家は直感を信じるもんだ」


ふふん、と得意気な顔をして言う彼だが、そういうものだろうか。
芸術家ぶりたいだけなんじゃ、と思ったものの彼が出かけるならば私も、と広間を出ていこうとするデイダラ君に慌てて声をかける。


「私も着いてっていい?」

「いいけど、奢んねーぞ」

「自分で買うよそれくらい。何買おっかなあ」


飛段さんのスペアリブなど食う気皆無状態。彼に背を向け広間を出ようとした私とデイダラ君、だったのだが。

勿論飛段さんは納得するわけもなく、がしりと私とデイダラ君の肩を掴んで来た。今度はなんだ。


「ちょっと待てって。俺のスペアリブが食えねえっていうのかよ」

「だからさっきからそう言ってんだろ、うん」

「なんでだよ!」

「オイラはおでんが食いてえんだ」

「おでん?肉のカケラもないじゃねぇか」

「なんでもかんでも肉中心に考えんなよ」


まったく、ここでもつまらない言い争いが続くのか。お腹すいたのに、と呆れの表情を浮かべたときふと気づく。

飛段さんの両手は、私とデイダラ君の肩を掴んでいる。左手はデイダラ君の肩、そして右手は私の肩。


…あれ、右手ってさっきスペアリブ持ってた手じゃ、と視線を下げ肩を見れば。


ぬるり、とした、脂が。私の肩にしっかりついていた。


きらきら輝く脂が嫌に眩しくて、瞬間的に喉から出てきた「ぬあっ」という可笑しな悲鳴。飛段さんは私に視線を向ける。


「あんだよ。あ、スペアリブ食う、」

「脂あああ!」

「は?」


直ぐ様飛段さんの手を振り払う、がその際私の腕に彼の手が掠った。その時感じたぬめり気にまた悲鳴が出そうになったが、口元が引き攣るだけで終わる。

最悪だ。飛段さんが掴んだ肩を見て呆然とする。スペアリブを掴んでいた手でそのまま触れられた肩にはぎとぎと脂がきらりと光っていた。あああ、ほんと最悪…。


「その脂ぎった手で、」

「…あ、あー。悪い悪い!そう言やあそうだったな」

「ぎゃあ!だから触んないで下さいって!」


きらきら光る手でまたぬっと手を伸ばしてくるもんだから直ぐ様ばっと身をひく。
こいつ、また触ろうとしてきやがった。肩はもう触られてしまったのでどうしようもないが、二度も触られてたまるか。
微妙に湿ったような感触もする肩に眉尻を下げ肩を見ていれば、2人はもう私のことなど眼中にないようで言い争いを再開させた。
内容は勿論先ほど言っていたことをなぞっているだけのくだらないものだが、よくまあ飽きないもんだ。

どうしよう、洗ってこようか。

もう彼らのことなど知るもんか、気持ちは既に萎え出かける気もなくなったもんだから広間から出ていこうとしたら、後ろから飛段さんとデイダラ君が慌てたように「あ!」なんて言うもんだから。
嫌な予感はしつつも振り返れば、二人はきりっとした顔で。


「おでんだよな、やっぱおでん派だよな!」

「肉だろ?!あかね肉好きだもんなァ!」


なんて言うもんだからもう、私は呆れた顔をして直ぐ様広間から出ていった。お子ちゃまコンビめ。まだ言うか。
とりあえず拭くか洗うか、お気入りの服だけあって微妙にショックなのを隠しきれず彼らに背中を見せれば後ろからばたばたと追っかけてくる足音が聞こえた。けれど私はもう振り向かない。帰ってきたら角都さんとサソリさんにチクってやる。













◎板挟み

(おいあかねー)

(なんで着いてくるんですか)

(何怒ってんだよ?うん)

(怒ってないです呆れてるんですよ!)

(で、結局どっちなんだ)

(あ、そうだよどっちなんだよ。え、肉?やっぱ肉だよなァ)

(何言ってんだよ。おでんっつったぞ。特にばくだん)

(なんも言ってませんけど私)


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