リク文字
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午後3時。ちょうどおやつの時間帯にて広間。
テーブルには並べられたケーキと紅茶。トビ君はそれを見下ろしフォークを握り、ケーキに差し込む。
手前に引いて一口サイズに切り分けたそれを目線と同じくらいの高さまで持っていき、彼は私を見て頷く。私も頷く。
そしてトビ君はいよいよケーキを口に入れた。
下から少し仮面を浮かして。
……。
「…仮面とればいいじゃん」
思わず右手で額を抑える。
そう、先ほどからこうなのだ。
私が作ったケーキをトビ君に食べさせてあげているとき、何故か彼はそのときでも仮面を外さない。
仮面を少し浮かして下から差し込む。紅茶も同じようして飲む。食べづらいことこの上ないだろう。
呆れながら言えば彼はきょとんとしたように「え?」なんて言うもんだから、まったくもう。
「食べづらくないの?」
「食べづらい」
でしょうね。
「だから仮面とれば」
仮面をとって普通に食べればいいのに。普通ならそうすると思うが、どうも彼は仮面を取らない。
私の言葉にも「うーん」と曖昧に返事を返しまたケーキをひと切れ口の中に入れる。勿論、仮面を浮かせて。
「あかねさんこれ美味しいです!」
だけど、まぁ喜んで貰えたのは嬉しい。
トビ君の言葉に私も口元を緩ませて、さぁ私もケーキを食べようとする。
元々トビ君は私と好みが似ていたりする。
本だとか異性に求めるものだとか性格もなんだかんだで合ったりするし歳も近いと思われるし。
そんな彼が言った。「ケーキが食べたい」と。お菓子作りは嫌いではないしそう言われればやる気もわく。
だからこうしてトビ君のためにケーキを作ったのだが。
彼は、仮面をとらない。
今に限った話ではないのだが、本人も食べづらいと認めているくせに何故仮面をとらないのか。
わけが分からず私もケーキを頬張りながらも彼の様子を伺う。
仮面を少し前に浮かせたため、顎のラインが少し見えた。ほっそりとしたちょうど良い感じのライン。
けれどそれ以外は何も見えず、口さえも分からない。暁は抜け忍の集まりだというしある程度の秘密はあるのだろうが、それにしたって分からない。
「良いっすねぇ、こういうのも」
だけど私とは違いトビ君は呑気にそんなことを言う。
まぁ、いいんだけどさ本人がいいのなら。
呆れはあるものの和む空気に私も笑う。
「そうだね」
「あかねさん上手なんですね、ケーキ」
「そう、かな。久々に作ったから不安だったけど、大丈夫?」
「全然美味いっすよ!ふわっふわじゃないですかこれ。うわあ美味し」
フォークで生地をつつくトビ君は感心したかのように言う。
生地には特に力を入れて素早くやったためそう言われるのは嬉しい。そこに気づいてくれるとはトビ君中々やるじゃないか、さすが。
頑張ったところに気付いて貰うというのはやはり悪くないので照れながら「えへへ」と笑えば彼は更に言う。
「これジャムですか?」
「あ、それは苺ソースっていうか、」
「ソース?へえ、凄いっすね!」
やはりトビ君は目ざとい。私が密かに頑張ったところに着目し丁度良い具合に褒めてくれる。
これでは照れるしかないじゃないか、とにやけの連続の中私もケーキを食べ進める。うん、おいし。
「いやあ、あかねさんにも取り柄あるんスね」
「えへへ、まあね。………」
…、あれ、取り柄?ふとフォークを止めトビ君を見た。彼は私の視線を特に気にするわけでもなく平然とケーキを食べている。
今の、褒め言葉なのかな。なんか含みのある言い方だったような…まぁいいか。
気にしないことにして曖昧に笑っておく。
「人間何か一つは良いとこあるって言いますけど」
「うん」
「良かったっすねぇあかねさん」
「……」
…褒め、てるんだよねこれは。
なんか馬鹿にされているような気がするのは気のせいか。とりあえず紅茶を飲んでおく。
飲みながらふと彼を見れば、彼の仮面に白いものがついているのが目に入る。
なんだあれ、とよく見ればそれは生クリーム。食べたときについたのか分からないが、仮面の下の方にちょん、とついていた。
それが変に仮面とマッチして思わず笑いそうになる。ぶは、なんか面白い。
「……」
「あれ、何笑ってるんスか」
「…トビ君、生クリームついてるよ」
笑いをこらえつつ言えば、彼は「えっ」と驚いたような声で自身の仮面をぺたぺたと触っていく。
的外れな所を触っていて生クリームにかすりもしない。それを見て更におかしく思う。
「え、どこどこ?どこっすか?」
「そこじゃないって。ほら、下の方」
「あ、ここっすか。ていうかあかねさんもついてますよー」
「え、うそ。どこどこ?」
「あ、惜しい。もうちょっと下っす」
「下?下って……え、口元?」
「全然違いますって!ここっすよ、ここ」
「わ、」
「あ、とっちゃいました」
「…あ、ありがとう」
「いえいえ〜。うん、甘い!」
「ちょ、食べんの?!」
「え、食べましたけど」
あー、なごやかー。
「…あいつら何いちゃついてんの…うん…」
「…無自覚うぜー」
しかし広間の前で飛段さんとデイダラ君が物凄い目でこちらを見ていることに気付きケーキを食べていた手を止める。
「あ、飛段さんとデイダラ君。ちょうど良かった。ケーキあるけど食べる?」
結構の自信作なんだけどと言えば彼らは顔を見合わせ何やら目で示し合わしている。
てっきり一つ返事で「食べる!」と来ると思ってたもんだからあれ、と不思議に思ってれば。
「…あー、俺らは後でいいや。な、デイダラちゃん」
「ちゃんつけんな気持ち悪ィ。…そうだな、オイラ達は夕飯頃にでも食うか、うん」
「そうだな、そうしよう。そんじゃ、邪魔したな」
…なにやらそわそわしている。早く去りたいとでもいいたげな雰囲気が滲み出ており不思議に思ったが彼らがそう言うのなら仕方ない。
また後でねと言い2人とは別れた。広間から出ていく際にも何故かこちらをちらちら見て部屋から出ていった。…なんなんだ…。
「あれ、帰っちゃったんスか?」
2人が出ていってしまったのを見たトビ君がぺろりと平らげた皿を見せながら言う。おお、もう食べたのか。
「なんか夕飯頃に食べるだって」
「ふーん」
「飛段さんとデイダラ君、そわそわしてたけど。なんだったんだろ」
先ほどの2人の様子を思い出す。こちらを苦々しいような目で見ていたと思えば、来たばかりだというのに広間には踏み入れずさっさと去ってしまった。
一体なにしに来たんだか。広間に用があったから来たんじゃないだろうか。
そしたらトビ君は「うーん」と少し悩むような仕草を見せて、ぽつりと呟いた。
「まぁ、なんとなく察しはつきますが…」
「え?なにが?」
「なんでもないでーす!一口もらいまーす!」
「あ、ああ!まだいっぱいあるのに、なんで私の食べんの!」
「いつまでも残しとくのが悪いんスよ」
まったく、ひどいじゃないか。言ってくれればいくらでもおかわりあげるのに。
私の残りのケーキを食べ始めるトビ君に私はそっと溜息と笑みを零す。そんなに気に入ってくれたのなら作った側としても嬉しい。
「あ、また生クリームついてる」
「え、うそお!」
今度は仮面の端っこに。やっぱり仮面取ればいいのに。
くすくす笑いながら私は近くにあったふきんでトビ君の仮面についた生クリームをとった。
「うお」
「子どもじゃないんだから」
「あかねさんもさっき付けてたじゃないっすか」
「私は1回だけだから」
「回数の問題っすか」
◎日常の話
(トビ君、チョコとか好き?)
(大好きっすー!)
(そっかぁ。じゃあ次はチョコ系でなんか作ろっかな)
(あ、僕もお手伝いしますよ)
(え、いいの?)
(はい)
(じゃお願いしよっかな)
((……))
(…あ、イタチさんと鬼鮫さん。任務お疲れ様です。ケーキありますけど食べます?)
(…いや、後でいい)
(私もあとでいいです。
…邪魔しましたねぇ)
(あ、はい……。また行っちゃった。皆お腹すいてないのかなぁ)
(そうっすねぇ)
(あれ、なんかご機嫌?)
(べつにー)
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