凜華録
□一片
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一体、何処(どこ)まで行けばいいのだろう。
何処(どこ)まで歩けばいいのだろう。
兄の言葉が蘇る。
「妃雀(ひばり)は自分の信じた道を生きるんだよ。 誰が駄目と言っても、正しいと思うことを最後まで貫くんだよ」
「大丈夫だ。 妃雀なら出来る。 大切なものを見つけるんだ。 分かるな」
そんなもの分からない。
大切なものなど、もうこの世界には無いのに...
それでも兄は、生きろと言った。
死んではいけないと。
だから妃雀は生きて、そして大切にできそうなものを捜している。
行く当てもなく、ただ歩きながら。
兄と過ごした江戸にはいられない。
楽しかった日々の思い出に押し潰されてしまうから。
何処(どこ)か人の多い、兄といた日々を忘れられるところに行きたかった。
とりあえず京(きょう)まで辿り着いたが、路銀が尽きているのでどうすることも出来ない。
疲労と空腹で、だんだん視界が白くなっていく。
…今、足がもつれたら絶対転ぶ...
薄れゆく意識の中で妃雀はぼんやりと思った。
さて、どうしたものか...
目の前に横たわる少年を眺めながら、沖田総司(おきたそうじ)はぼんやりと考える。