FALLEN ANGELS

□プロローグ
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西暦2307年。

世界は大きく三つの国家群に分かれていた。

一つは、米国を中心とした世界経済連合――通称ユニオン。

一つは、中国・ロシア・インドを中心とした人類革新連盟――通称、人革連。

そして最後の一つは、新ヨーロッパ連合――AEU(エーイーユー)。

この三つの国家群は、赤道上に建造された三本の軌道エレベーターのいずれかを、枯渇した化石燃料に代わる太陽光発電システムのエネルギー供給源として、それぞれ一基ずつ所有していた。

軌道エレベーターは、全長五万キロメートルにも及ぶ巨大な建造物だ。

地球の直径が約一万二千七百キロメートルであることを考えると、その巨大さが窺い知れる。

約四倍である。

地球を遥か遠くから望むと、軌道エレベーターはまるで地球という青い団子に突き刺さった細い金属の針のように見えた。

しかし、軌道エレベーターはその巨大さから防衛が困難であり、構造上の視点から見てもひどく脆い建造物だった。

そのため各国家群所有する軌道エレベーターに軍事力配備し、三本の軌道エレベーターは高度一万キロメートルと三万六千キロメートルの二ヶ所を軌道リングで繋いで堅牢化がなされていた。

軌道エレベーターには、主に二つの役目がある。

一つは、宇宙・地球間の物資の移送。

エレベーター内を走るリニアトレインによって宇宙空間と地球との往復は、旧時代のロケットに比べて安価かつ安全に行うことが可能となっていた。

そしてもう一つは、太陽光発電システムによるエネルギーの供給。

宇宙空間に配置された大量の発電衛星によって発生された大電力を、エレベーターはケーブルを通して地上へとおろしている。

かつて世界中を席巻した化石燃料の代替物として、過不足なく円滑に機能していることから、その供給される電力量の膨大さがわかる。

この軌道エレベーターを建造するために、世界は三つの国家群に集約させた。

全長五万キロメートルという巨大な建造物を完成させるには、それだけの資金力と技術力か、必要であったのである。

そして、約半世紀という長い歳月と巨額の費用が投じられ、三本の軌道エレベーターは建造された。

エネルギー資源不足の不安は一掃され、宇宙開発という新しい道が切り開かれたとだ。

しかし争いはなくならなかった。

三つの国家群は、己(おのれ)の威信と繁栄のため、常に他の国家群の動向に目を光らせていた。

他者より抜きん出るため、より多くの利益を得るため、より己の国家群が発展するため。

そこにはかつてあった冷戦時代を思わせる、お互いの腹を探り合うような緊迫した雰囲気が漂っていた。

もちろん、それだけではない。

世界には民族紛争もあった。

宗教戦争もあった。

各地で続く小競り合いのような内乱もあった。

人は争うことをやめられないでいた。

二十四世紀に入ってもなお、世界には戦争の影が色濃く残っていた。

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