春うらら 番外編

□第九話仁王視点
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ブンちゃんに毛色の変わった女の連れが出来たらしい。自分への接し方が他の女と違うのが面白いとかで、その女のことを結構気に入っとる。好き嫌いの激しいブンちゃんがあそこまで気に入るのは珍しい。今もポッキーの新商品がどうのこうのとメールでやり取りしとるみたいじゃ。まぁ、別にブンちゃんが誰と仲良くしようが構わんし、どうでも良いけど。
あ、そういえば昼休みに中庭の校舎裏に来てって言われとったっけ………。あー、………めんどい。行きたくない。無視したいけど無視した方がめんどい事になりそうじゃな………あーあ、なんで他の女と一発ヤッたぐらいでなんで怒られなイカンの。……もう別れるかのぅ、飽きたし。潮時じゃな。
などと、ぐたぐだ考えながらユニフォームから制服に着替える。

「ブンちゃん、俺行くからドア閉めとって」
「おー」

ブンちゃんに部室の戸締まりの頼んで、朝練疲れたし…授業サボろ。ここんとこまともに授業出とらんなあ、と思いながら保健室へ向かった。



昼休み。面倒くさい別れ話をするために渋々指定された場所へ向かうと、すでに待っていた女に開口一番キレられた。
「他の女とヤッた」だの「部活ばかりでかまってくれない」だの「その女と私どっちとるのよ」だの、ピーチクパーチクうるさい。責められる声にうんざりしながら「どっちにするも何もどっちもいらん」と言うとビンタが飛んできた。「ヒドイ」と言って走り去る女を見ながら、最近女と別れる時はこのパターンばっかりじゃな。と思った。
このまま教室へ行く気にも、保健室に戻る気にもならず、とりあえず中庭のベンチで寝ようとすると、ベンチにはすでに先客がいた。
なんじゃ………せっかく寝ようと思ったんに。はよ退かんかな。……ん?こいつ、どっかで見たことある気が…。
ベンチに座って弁当を食ってる女の姿をじっと見つめていると、女の動きが若干ぎごちなくなった。どうやら女も俺の視線に気が付いているらしい。
んー、どこで見たんじゃったっけなあ…………あ、ブンちゃんじゃ。ブンちゃんの毛色の変わった連れ。前に写メで見たことある。女に「ブンちゃんの知り合いか?」と聞けば、若干警戒しながらも「そうだ」と答えたし間違いない。…………どこからどう見ても普通のやつじゃけど、ブンちゃんはこいつのどこが気に入っとるんかのぅ。


ぐるるるる…………

「………」
「………」

女を観察していたらお腹が鳴った。あいつが美味そうにおにぎりを頬張っているせいで自分の腹の虫も触発されたようだ。
そういえば丸一日何も食っとらんしなあ。あのおにぎり美味いそうじゃな。と思い、見つめる。

「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「ピヨ」
「……………」
「プリ、」
「……………」

黙って見つめていれば、向こうから自主的におにぎりを進めてくれるかなと思ったが(じゃって、柳生とか俺がちょっとあいつの弁当見ただけで「食べますか?」って進めてくるし)スルーされるので、おにぎり欲しいアピールをしてみる。と「お腹空いてるなら購買へ」と言われてしまった。
……ちょっとショック…。なんでおにぎりくれんのじゃろ。
なんだか、どうしてもあのおにぎりが食べたくなったので「おにぎりが食べたいナリ」とハッキリと催促すると、ものすごく嫌そうな顔をしながらおにぎりを二つくれた。手のひらに乗った二つのおにぎりを見てると、胸の辺りがホワホワする。
あれ…?かなり嬉しい。おにぎり貰えた。めっちゃ美味そうじゃ。こんなに食いもんが美味そうに見えるの久しぶりかもしれん。
ちらり、と女の方を見ると卵焼きが目に入った。卵焼きも美味そうだったので、弁当に手を伸ばすと「かつあげですか?」とか「私の食べるものが〜」とか言われたが、とりあえず無視して卵焼きを一つ食べる。もぐもぐと咀しゃくしながら次は唐揚げを一口。合間におにぎりもぱくり。
卵焼きも唐揚げもおにぎりも美味しくて、ついついアレもコレもとお弁当からおかずを食べていると、最初は何やら文句を言ってた女も途中から何も言わなくなり、気づけば二人で並んでお弁当を食べていた。

「唐揚げ美味い」
「……はぁ」
「………アスパラは嫌いじゃ」
「好き嫌いは良くないですよ」

お弁当をつつきながら女に話しかけるも、薄い反応しか返ってこないことに少し口元が綻ぶ。ただ隣にいて黙々と飯を食ってるだけで、のんびりした雰囲気が流れているように感じて、それがなんだか楽しい。
ちょっとだけブンちゃんの気持ちがわかるかもしれん。女と一緒におって普通にのんびり出来るってのは、なかなか無いからのぅ。
大体のやつはきゃーきゃー言ってうるさかったり、ぺちゃくちゃと話かけて来たり、珍しく話しかけて来ないと思ったら「テニス部だから」とか「色んな女の子と遊んでるから」とかいう理由で嫌悪感丸出しにされたりするし。
騒ぎもせず、拒絶もせず、普通にしてくれるのがこんなに新鮮だとは思わんかった。普通って意外に良いもんじゃな。と思いながら女に声をかける。

「ごちそうさん。美味かったナリ」
「はぁ、どうも」

ペコリと軽く頭を下げる女を横目で見ながらベンチから離れる。
お腹がいっぱいになったおかげで、さっきより良い気分になったので、久しぶりに授業に出るか。と教室に足を向けた。

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