感謝企画!

□B
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もぐもぐと咀しゃくしながら頭の隅で、これは何かの罰ゲームなのだろうか、とぼんやり考える。

いつものように突然教室に現れた跡部さんに連れられて生徒会室にやってきた。そして、訳がわからずポカンする私と跡部さんとでお昼ご飯を食べている(と言ってもご飯を食べる私を跡部さんが眺めるという不思議な状態だが)。
なぜ跡部さんとランチしなければいけないのか、とか、なぜそんなに見つめてくるのか、とか疑問はたくさんあるのだが、それよりも跡部さんに「俺様の手料理だ。食え」と言って振る舞われた料理の数々の不味さに愕然とした。
あまりの不味さに意識が途切れ途切れになる中、跡部さんが「マドレーヌのお礼」やら「お前が喜ぶかと思って」などのフレーズが聞こえてきた。
なるほど……いつぞや私があげたマドレーヌのお礼にお昼をご馳走してくれているのか。謎が一つ解けた。でもなぜ手料理なんだ。普通に食堂のご飯だったらこんなことには……。と思っていると、ドヤ顔の跡部さんに「味はどうだ」と聞かれてしまった。
……ドヤ顔のことろ申し訳ないですが、味は正直まずいです。ゲロ不味です。でも、好意で料理を振る舞ってくれているのにそんなことは言えないしな……。
ごくり、と咀しゃくしていたモノを飲み込みながら何て答えようかと悩んでいると、跡部さんの眉間に徐々に皺が寄り始めたので、慌てて口を開く。

「こ、個性的な味です、ね」
「個性的…だと?」
「は、はい」
「……それは不味いってことか?」
「え。あー…えぇぇっと…」

どうしよう。お世辞でも「美味しいです」と言えば良かった…。跡部さんの眉間の皺が寄りまくってる。
本音を言うわけにはいかず、かといってお世辞を言えずにモゴモゴしていると跡部さんが私のお皿から唐揚げ(と思しき物体)を一つ摘まみ、口に運んだ。

「あっ。(あの物体生焼けなのに…)」
「……ぐっ!」
「…大丈夫ですか?」
「……不味い」

口元を押さえながら呻く跡部さん。
そりゃぁそうだろう。生焼けのお肉なんて食べられるもんじゃない。お腹壊すよ。

「お前………よく食べたな……」
「あはは………て、ちょ!何してんですか!」

我が校のキングの手料理を残すなんてファンクラブの人たちに殺されると思ったから必死で食べてたんだよ。と思いながら愛想笑いをしていると、若干顔色が青白くなっている跡部さんが他のお皿の料理も次々に口に運び始めた。私の制止も聞かずパクパクと食べていく。
どの料理も一口食べるごとに「うっ」だの「ぐっ」だの呻き声が聞こえてくるので、大丈夫だろうか、と心配しながら見守っているとアッという間に全て食べきってしまった。
口元を押さえてグッタリしている跡部さんに恐る恐る声をかける。

「………だ、大丈夫ですか?顔色悪いですけど…」
「…大丈夫だ。…悪かったな、不味いもの食わせて」
「いえ…」

最初は、こんなに不味いものを食べさせるなんて罰ゲームor嫌がらせに違いないと思ったが、跡部さんの話を聞く限りでは私にお礼をするつもりで作ってくれたみたいだし、謝られるとこっちも申し訳ない気持ちになる。
気まずい雰囲気に居たたまれなくなり、なんとか雰囲気を替えようと口を開く。

「えっと……お昼、作って下さってありがとうございます」
「……」
「味は…まぁ、ちょっと個性的でしたけど……跡部さんでも出来ないことがあるんだなって、少し親近感湧きました」

へら、と笑ってお礼を言うと、なぜか跡部さんは驚いたように目を見開いている。
あれ?なんか変なこと言った?あ、親近感とか馴れ馴れしかった?と内心不安になりつつも愛想笑いを浮かべていると跡部さんがボソボソと話始めた。

「………幻滅しないのか?」
「え?」
「料理もまともに作れねぇのかって、幻滅しないのか?」
「え」

跡部さんの言っている意味が良く理解出来なくてキョトンとしてしまう。
幻滅?なんで?普通はそんなことで幻滅はしないと思うけど。………あ、そっか、跡部さんはキングだもんね。キングはキングなりに不安に思うことがあるのかも。……うーん、でも別にみんな料理が出来ないぐらいで幻滅はしないと思うけど…。

「幻滅なんてしませんよ。別にパーフェクトじゃなくても、跡部さんは跡部さんだと思いますけど」
「……」
「……」
「……」
「……………えっと………あの、跡部さん?」

料理が出来ないことを気にしていたようなので励ましてみたのだが、なぜか私をガン見したまま黙り続ける跡部さん。
………なんだ?なぜ黙ってるのだろう。励まし方が良くなかったのだろうか。もっと別の励まし方が良かったのかな?でもなんて言えば良いのかわからないし…………ん?跡部さんの顔色さっきより悪くなってる気が………

「あ、跡部さん大丈夫ですか?顔色おかしいですよ…?」
「………」
「………保健室にb「駄目だ。動いたらやべぇ」
「え。…それはもしや吐」
「言うな。想像しただけでも出そうだ」
「………………………マジで?!吐きそうだからずっと黙ってたの?!ちょ、もうちょっと早く言ってくださいよ!」
「おま、吐くとか言うな!つられるだろ…………あ、やべ」
「ちょ!跡部さん!ストップ!我慢!…うわああああああ!」






その後、体調が戻った跡部さんに「この間のリベンジがしてぇから、飯の作り方を伝授しろ!」と言われたので、時々調理室で料理を教えることになった。
ブリ大根や、鯖の味噌煮、だし巻き卵や、豚のしょうが焼きなど、庶民的な料理を次々と覚えていく跡部さん。
こんな庶民的な料理ばかり教えて良いのだろうかと思いつつ、自作の鯖の味噌煮に感動している跡部さんを見ていると、まぁ喜んでいるみたいだし良いか、と微笑ましい気持ちになった。

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