春うらら.

□第四十一話
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「………な、なに?」
「仕返しナリ」
「?」
「寝顔見られたからのぅ。仕返しでじっくり顔見ちゃろうと思って」
「ゴメンナサイ。本当ゴメンナサイ。勘弁してください」
「プリ、」

本当に勘弁してほしい。こんな平々凡々の顔なんか見ても面白くもなんともないだろう。仁王さんはイケメンだから、目の保養的な意味で見る価値はあると思うけど、私はそんなのないのに。
顔を背けたり、手のひらで顔を隠したりして仁王さんの視線を避けようとするが、あまり意味がないようで、何をやってもニヤニヤしながら見つめてくる。
う、うざい…ニヤニヤ顔がうざい……うざいくせにイケメンとか…ムカつく…。
ニヤニヤ顔の仁王さんに負けじと睨んでみたが、ぐぃっと顔を近づけられて、あえなく撃沈。ドアップもイケメンってことはわかった。あんな至近距離で睨み付けるなんて出来ません、恥ずかしすぎる。
仁王さんに散々イジメられて疲れて果てていると、遠くからチャイムの音が聞こえてきた。恐らく下校時間のチャイムだろう。

「げっ、ヤバ。まだ作業途中だった!」
「? 何しとったん?」
「この回収リストの本集めててさ。まだ半分ぐらいしか見つけてなくて……」
「ほーん。…貸しんしゃい」
「?」
「一緒に探す」
「え、いいよ。ていうか、仁王さんは部活に行った方が良いんじゃない?」
「今日は自主練じゃから大丈夫(ほんとは部活あるけどもう今更行っても意味ないしのぅ)」
「あ、そうなんだ」
「うん。だから大丈夫ナリ」
「……わかった。ありがとう」

好意に甘えて仁王さんに手伝ってもらうことになったのだが、私が1時間近くかかっていた作業を、ものの15分程度で終わらせてくれたのでビックリした。頭の出来が違うと、こういうところにも差が出るのだろうか?まぁ、なんにせよ助かった、ありがたい。

全部回収した後、仁王さんに本を半分以上持ってもらって(全部持てるといったのだが、頑として持たせてくれなかった。「持てるって」「ダメ。絶対渡さん」)図書委員長のいる貸し出しカウンターへ向かい、本を渡す。

「回収終わりました」
「はーい、ありがとう。あ、仁王くんも手伝ってくれたんだ。ありがとうね」
「……」
「………………え、えっと、他に何かすることはありますか?」
「ううん、もうないよ。お疲れ様」
「はい、お疲れ様でした」
「………」

先輩に話しかけられても無言の仁王さんに、図書室を出て廊下を歩きながら「無視は良くないんじゃないかな」と言うと「喋りたくない」と返ってきた。
………うーん、喋りたくない、かあ…。それでも返事ぐらいはした方が良いと思うんだけど…。女の子嫌いなのかな?そういえば、仁王さんが他の女の子と仲良さげにしてるの見たことないかも…。それに、だいぶ前に丸井さんから「仁王が女子と仲良くなるのは珍しい」的なこと言ってたな…。

「仁王さんって女の子嫌いなの?」
「嫌いっちゅうより興味無い。……名無しちゃんは別じゃけど」
「………あ…ありがとう…?」
「なんで疑問系?」
「いや、なんて答えたら良いかわかんなくて」
「『きゃっ!ありがとう、まーくん!素敵!』って言うとこぜよ」
「……私の声で変なこと言うのやめて」
「プリ、」

仁王さんの「名無しちゃんは別」という言葉に少し、いや、けっこうドキッとしたものの、変なモノマネのおかげでいつも通りに返すことが出来た。

私は別って…どういう意味で言ったんだろう?……あれか、お弁当くれるから別、みたいな感じか。などと思いながら、帰宅するために下駄箱に足を向けた。
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