春うらら.

□第四十二話
1ページ/2ページ

カサカサと落ち葉を踏みしめながら、ゴミ捨て場へ向かう。掃除当番で一番嫌な作業はこのゴミ捨てだな。ゴミ捨て場遠すぎ。と心の中で文句を言いつつ、のんびり歩く。
校舎を出て校舎裏を通ろうとした時、男女が向かい合っているのが見えたので何気無しに二人を眺めてると女の子の声が聞こえてきた。

「ず、ずっと前から好きでした!付き合って下さい!」
「………」

こ、告白だ…!生まれて初めて見た…。え、私邪魔だよね。か、隠れねば…!
野次馬になる気は無いのだが二人の邪魔をしてはいけないと思い、歩くのを止めて物陰に隠れる。
全く関係のない私がこんなにドキドキしてどうする。と自分でも思うほど、心臓がバクバクしている。
うぅ…。沈黙が辛い…。早く返事してあげて。出来れば良い返事してあげて。と祈っていると男の子の声が聞こえてきた。

「………今は部活に集中したいんだ。だから付き合うことは出来ない」
「……そ、そうですか…。わかりました。すみません、時間をとらせてしまって…。失礼しました!」

女の子がバタバタと走り去っていく足音を聞きながら、世の中って上手いこといかないものだな、と考えていると、頭上から声をかけられた。

「覗き見とは趣味が悪いな、名無しの」
「ぎゃっ!…や、柳さん?!」

声をかけてきたのは柳さんで、怒っているのかどうか読み取れない表情で私を見下ろしてくる。見下ろされたままだと話しにくいので自分も立ち上がってから(立ち上がっても身長差で見下ろされるけど)口を開く。

「ええええっと、断じて覗き見をしていたわけでは…。た、たまたま通りかかったんですよ。いや、マジで。本当に。歩いてたら告白シーンに出くわしたので、これはいけないと思っ………あの、柳さん?」
「………、いや、すまん…」
「え、あの…」

口許を押さえて肩を揺らしてるけど……これは百パーセント笑ってるよね…。なぜ笑うんだ。いや、まぁ怒られるよりは良いけど…。と考えていると、笑い終えた柳さんに「必死に弁解しているのが面白くてな。すまない」と謝られた。

「いえ、こちらこそすみませんでした(弁解してる姿が面白いって……なかなか失礼だな)」
「故意に見ていたわけじゃないんだろう?」
「はい、もちろん」
「なら、気にするな」

フッと少しだけ口角をあげて微笑む柳さんを見てホッと一息つく。
良かった…怒ってなくて。次から告白シーンに出くわしたら早足で去ろう。

「名無しのは誰かに告白する予定はないのか?」
「………は?」
「嫌なら答えなくて良い。好奇心で聞いているだけだ」
「はぁ…。えっと、告白する予定はないですね。まず相手がいないので」
「ふむ」

柳さんがよくわからない質問をぶつけてきた。
いつもの事情聴取の一貫だろうか?ていうか、そのノートとペンはどこから取り出したんだ。今まで持ってなかったよね。
いつの間にかノートとペンを持って何やらメモをとっている柳さんに疑問を抱きつつ、質問に答える。

「今後する予定は?」
「未定です」
「そうか。なら、気になる相手は?」
「…………」

えええぇ…?今日の柳さんおかしくね?なぜ恋愛系の質問ばかりするんだ。色恋沙汰には疎いから、こういう質問は正直苦手なんですけど。

「気になる相手もいませんけど…」
「…」
「…」
「…もし、仁王に彼女が出来たらどうする?」
「え?」

…もし仁王さんに彼女が出来たら?……そんなこと考えたことなかった。ていうか、いま仁王さんって彼女……いないのかな?………いないっぽいけど…だって、いたらお弁当とか欲しがらないと思う。………うーん、もし仁王さんに彼女が出来たら、お弁当交換したりすることもなくなるのかな?…メールとか電話も少なくなるだろうし…。それは…ちょっと…

「名無しの?」
「…あ、え、すみません。えっと……仁王さんに彼女が出来たら……少し寂しいですね」
「…そうか」
「はい」

うん。寂しい。お弁当交換するの地味に楽しみだし、毎日来るメールや電話がパッタリ止むとつまらなくなるだろうし。本当は、彼女が出来たら素直に喜んであげるべきなんだろうけど、寂しいっていう気持ちの方が大きいな。
柳さんの質問に答えつつ、自分の中で仁王さんの存在が意外に大きかったことに少し驚いていると、背後からガサッと物音がしたので振り返る。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ