春うらら.

□第四十三話
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「っつーわけで、鍋パしようぜ!」
「どんなわけだ」

休み時間。トイレから教室に戻る途中、廊下で会った丸井さんが意味不明なことを言いながら声をかけてきた。丸井さんが唐突なのはいつものことだが「っつーわけで」とか言われても困る。まず、声をかける第一声として「っつーわけで」は間違ってるだろう。
何言ってんだこの人、と呆れた視線を向ける私に何やらペラペラと鍋パについて話始めた。

「今度、仁王んちで鍋パすんだよ。俺と仁王と赤也とジャッカルで」
「へぇー」
「だから、お前も来い」
「…うん?私が行くのはおかしいくない?」
「なんもおかしくねぇよ」
「いや、おかしいよ。女子一人だし」
「安心しろぃ。俺はお前のこと女だと思ってねぇから」
「私も丸井さんのこと男だと思ってないからお互い様だね」

アハハと笑い合いながらも、ピリッと雰囲気を醸し出す私達。
別に女の子として見てほしいなんて1ミリも思ってないけど、真っ正面から否定されるとイラッとするよね。たぶん丸井さんも同じことを思っただろうな。目が笑ってない。

「まぁ、いいから来いって」
「え〜…」
「お前がいねぇと誰が鍋作るんだよ」
「それが目的か」

熱心に誘ってくるなと思ったら料理担当としてか。焼き肉屋さんでお肉を焼いてあげたから味をしめたんだろうか…。うーん、どうしようかなぁ?鍋は作るの簡単だから料理担当は全然良いんだけど……こう、なんていうの?テニス部水入らずのところに部外者が入って良いのかっていうところで悩むんだよね。
私がうんうんと唸っていると、不機嫌そうに丸井さんが口を開く。

「なに、なにが嫌なんだよ鍋パの」
「いや、別に嫌ってわけじゃ」
「じゃぁ、来いよ」
「え、いや、なんていうか、テニス部水入らずのところに部外者が入って良いのかって感じじゃない?」
「はぁ?今さらそんなこと気にすんなよ」
「えぇぇ…」

今さらって…。確かに今さらな感じはするけど。でもさ、確かに丸井さんと仁王さんは友達だけどジャッカルさんとモジャモジャくんは違うわけで。ジャッカルさんとモジャモジャくんが「はぁ?部外者呼んでんじゃねーよ」って言ったらどうするの?まぁ、そんなこと言う人たちじゃないだろうけどさ。丸井さん達には気を使わなくとも一応ジャッカルさんとモジャモジャくんには気を使うわけよ。と伝えていると、私の話を「変なとこで悩みやがって」みたいな顔して聞いていた丸井さんが私の背後に向かって声をかけた。

「あ、おーい!ジャッカル!」
「ん?…おぉ、ブン太に名無しの。何してるんだ?」

こちらに近づいてくるジャッカルさんに「鍋パ、名無しのも呼んで良いよな」と話しかける丸井さん。ジャッカルさんは笑顔で「あぁ。名無しのが良かったら一緒にやろうぜ」と言ってくれた。

「テニス部水入らずじゃなくて良いんですか?」
「別に水入らずってわけじゃないから大丈夫だって」
「な?言ったろ気にすんなって。っつーわけでお前は当日仁王と買い出しな」
「え、あ、うん、了解。…ジャッカルさんは何鍋が良いですか?」
「え、俺?…うーん、そうだなあ…」
「おい、俺にも聞けよ」
「丸井さんは何でも食べるでしょ」
「お前な……」

ジャッカルさんから菩薩のような笑顔で誘ってもらえたので、鍋パに参加することにした。ジャッカルさんの笑顔は素敵だと思う。なんていうか…後光が差してて心が洗われる感じ。お地蔵様と大仏様を拝むのと似てるかも。最近、隣の席の人の笑顔に怯える毎日を送ってるから余計に癒される。
心の中でナムナムと拝みつつ、ジャッカルさんと(ついでに)丸井さんに鍋のリクエストを聞くと「キムチ鍋」と「ちゃんこ鍋」と返ってきた。
キムチ鍋とちゃんこかぁ…。ここはジャッカルさんのリクエスト受けた方が良いかな。と考えていると、心優しいジャッカルさんが「俺らより仁王のリクエスト聞いてやってくれ。あいつ偏食だから」と言ったので「そうですね。了解しました」と返す。
仁王さんの偏食まだ治ってないんだ…。私と食べるときはそうでもないのに(文句言いつつも食べてる)…うーん、また部活中に倒れたりしてないと良いけど。などと考えつつ、なんやかんやと三人でお喋りしていたら休み時間終了のチャイムが鳴ったので、二人に「またね」と手を振り別れる。

鍋パかあ、誰かの家でワイワイするのとか初めてかも。ちょっと楽しみ。と少しウキウキしながら教室に戻った。

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