春うらら.

□第四十四話
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今日は例の鍋パの日。テニス部の部活が終わってからパーティーを開始する予定だ。部活が終わった仁王さんが家まで迎えに来てくれて、二人で買い出ししてから仁王さんちに行く手筈になっている。
本当は、わざわざ迎えに来てもらうのも悪いので「学校かスーパーで待ち合わせしよう」と言ったのだが仁王さんに「ダメ。家で待っとって。夜道で何かあったらどうするん」と断固拒否されてしまった。
…あの仁王さんの心配性はどうにかならないものだろうか…。この前も、夜10時頃にコンビニ行く途中で仁王さんの電話に出たら「夜道は危ないき、はよ家戻って」「えぇ?まだお汁粉買ってn「はやく」「…はい」って叱られたしなぁ…。用心に越したことはないのだろうけど、仁王さんはどう考えても心配しすぎだ。
なんて考えながら制服を脱いで、スキニーのジーンズにグレーのセーターを着る。
もうそろそろ部活が終わる頃だろうから準備しとかないと…。うーん、髪の毛は緩く結ってまとめて、化粧は面倒だからうすーくで良いか。
鏡に向かいながらダラダラ準備をしていると携帯が鳴った。確認すると仁王さんから『着いたナリ』とメールが届いていたので、手早く準備を終わらせ、鞄に携帯を入れてコートとマフラーと手袋を装備して家を出る。

「お待たせー」
「お、着ぶくれしてモコモコしとる」
「寒いからね」
「暖かそうナリ。手袋片方ちょうだい」
「やだ」
「ピヨ…」
「丸井さんたちは?」
「着替えてから来るって」
「ふーん」

家の塀にもたれていた仁王さんに声をかけて、二人並んで歩き出す。スーパーへ向かいながら、すっかり暗くなった空を見上げる。ついでに、ちらりと隣を歩く仁王さんに目をやると、耳が寒さで真っ赤になっていた。

「うわ!仁王さん、耳真っ赤!」
「え、ほんま?」
「うん。冷たいとか痛いとかないの?」
「えー?うーん、わからん。ていうか感覚ない」
「ヤバイよそれ」
「名無しちゃん暖めて」
「それは無理です」
「えー」

えー、じゃないよ。まずどうやって暖めるんだよ。と思いつつ、鞄から念のため入れておいた耳当てを取り出す。
見てて痛々しいから仁王さんに貸してあげよう。

「はい」
「?」
「貸してあげる。つけると暖かいよ」
「………あ、ほんまじゃ。ぬくい」
「でしょ?」

すごい、ぬくい。と嬉しそうに笑う仁王さんにヘラリと笑い返す。
喜んでもらえて何より。意外に耳当て似合ってるね。などと思っていたら、スーパーに到着。
カートにカゴをセットして、カラカラと押して進む仁王さんに「何鍋食べたい?」と聞くと「肉が入ってて美味いやつ」という言葉が返ってきた。
む、難しいことを……。お肉がたくさん食べれると言えばしゃぶしゃぶとか?でも、鍋って感じじゃないし…。もう、ごった煮にしてしまおうかな。 お肉と野菜とお魚入れて、お味噌ベースのお鍋にしよう。うん、決まり。
作るものが決まったので野菜売り場へ足を運んで、白菜の品定め。後ろから「白菜嫌い」とワガママを言う仁王さんをたしなめるために口を開く。

「好き嫌いはダメだよ。ていうか、いつまで耳当てつけてるの」
「ここ寒いもん」
「だからって……店内では取ろうよ」
「やだ」
「もー…」

耳当てを取ろうとしない仁王さんにため息をつきながら、材料をどんどんカゴの中へ入れていく。
食べ盛りの男の子4人分ってどれぐらい買えば良いんだろ?野菜はこれぐらいで良いにしても、お肉が問題だなぁ。みんな部活終わりでお腹空いてるよね?これぐらいで足りるかな?

「ちょ……名無しちゃん」
「なに?」
「入れすぎじゃろ」
「え、そう?男の子4人だよ?みんなお腹空いてるんだよ?丸井さんがいるんだよ?」
「…………ちょうど良いナリ」
「でしょ?」

二人でなんやかんやと相談しながらカゴいっぱいに材料を買い込み、いざ仁王さんちへ。重いものは仁王さんが持ってくれているので私の足取りは軽い。

「あ」
「? どうしたん?」
「ずっと聞こうと思ってたんだけどさ」
「うん」
「鍋パなんてして家の人に怒られないの?」

丸井さんに鍋パに誘われてからずっと気になっていたのだ。今まで聞くタイミングがなくて聞けなかったけど。

「あー、心配せんでいいぜよ。親は今旅行中でおらんし、弟は彼女んちに泊まりに行っとる」
「あ、そうなんだ。ていうか、仁王さん弟いるんだね」
「生意気盛りが一人。あと姉貴も一人」
「へー!なんか意外」
「名無しちゃんは?」
「私、一人っ子」
「ほーん」

家の人がいないことに一安心して、だらだらとお喋りしていると仁王さんちに着いた。
「どうぞ」とドアを開けてくれる仁王さんにお礼を言いつつ中に入る。
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