春うらら.

□第四十八話
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年が明けて早いものでもう一週間が過ぎた。今日から授業が始まるので、冬休みで鈍りきった体を叱咤して学校へ向う。
教室に入ってクラスの子たちに新年の挨拶をしつつ自分の席へ。隣の席にはすでに幸村さんが座っていた。
朝からいるなんて珍しい。今日は朝練ないのかな?と思いつつ声をかける。

「おはようございます」
「おはよう。と、明けましておめでとう」
「はい、おめでとうございます」

読んでいた本から視線を上げてニッコリ微笑む幸村さん。その笑顔になぜか背中がゾワリとする。
……な、なんだ?なぜ悪巧みスマイルなの?新年早々怖いんですけど…。
ビクビクしながら自分の席に座って鞄から今日提出する宿題を取り出していると隣から声をかけられた。

「名無しのさん」
「…な、なんですか?」
「初詣楽しかった?仁王と行ったんでしょ?」
「…なぜ…それを…」

キラッキラの笑顔で恐ろしい質問をしてくる幸村さんに思わずタラリと冷や汗が出る。
仁王さんの話題はやめてもらいたい。初詣の時、仁王さんにドキドキしてしまって本当に大変だった(心臓と脳みそが)のだ。帰宅してからも仁王さんのことでぐるぐると頭を悩ませたほどに。だからもうその話題は結構です。勘弁してください。
表情から私がこの話題を嫌がっているのはわかっているはずなのに、幸村さんはそんなことお構い無しに「お守りあげたんだって?」と冷やかしてきた。

「お守りあげるなんて、名無しのさんも可愛いところあるんだね」
「な、なんでそんなこと知ってるですか?」
「今日、仁王のテニスバックにお守りついてたから聞いたんだ」
「………(つけてくれてるのは嬉しいけど、幸村さんには黙ってて欲しかったよ仁王さん)」
「あいつ中々話そうとしないから、つい根掘り葉掘り聞いちゃった」
「……」

可愛らしい笑顔で「聞いちゃった」とか言ってるけど、その笑顔がもはや怖いです。全然可愛くないです。
幸村さんはこんな話をして一体何が面白いんだろう。なんでこんなに笑顔なんだろう。と冷や汗をかきながら疑問に思っていると、幸村さんが口を開いた。

「名無しのさんってさ」
「はい…」
「仁王のことどう思ってるの?」
「……」

どう思ってるかって……そりゃぁ、友達ですけど…。いや、友達にドキドキするのはおかしいか…。でも私が勝手にドキドキしてるだけで友人関係ではあるしな。あー、なんで仁王さんにドキドキしてんの自分…。
うんうんと自分の世界に入って考え込む。ぐるぐる考えた末、良くない答えにたどり着いた辺りで、幸村さんに再び声をかけられた。

「…名無しのさん?」
「あ、すみません」
「考え込んでたね」
「アハハ…」
「で?どうなの?」
「いや、どうなのって言われても…」
「どうなの?」
「いや、あの…」

………なぜこんなに聞いてくるのだろうか。そっとしておいて欲しい…。ていうか、答えなければいけないの?実は仁王さんのこと気になってる、なんて言ってどうなるの?それに、もし幸村さんに仁王さんのこと気になってるなんて言ったら……仁王さんにバレて「何じゃあいつ。うざ」ってなって…………うわ、そんなのイヤだ。へこむ。悲しい。へこむ。駄目だ、想像だけで悲しくなってきた…。

「………幸村さん、お願いですからこの話題やめてください」
「どうしたの、急にテンション下がってるし」
「ちょっと悲しくなってきて…」
「ふーん。仁王のことs「やめて下さい」
「仁王のこと好「ほんとやめてくださいマジで」
「仁王のこと好k「ああああああ」
「アハハ、面白いね名無しのさん」
「……(私はしんどいです)」

結局、私が何度頼んでも止めてもらえず先生が教室に来るまで「仁王のk「止めてください」「好きn「止めてくださいってば。なんですかイジメですか」というやり取りが続いた。
授業を受けながら、今度ハナちゃんに幸村さんのイジメがひどいって相談しよう、と静かにため息をついた。

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