春うらら.

□第四十九話
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幸村さんのせいで気づいた自分の気持ちに目を逸らし続けて、はや半月。変に意識さえしなければ仁王さんとはいつも通りに接することが出来るので一安心している。たまに幸村さんが冷やかしてくるので、それさえなければ今まで通りの平穏な日々なのにと思う今日この頃。




「うわ、甘っ!美味しい!」
「焼き芋ってこんなに甘くなるんか…」
「凄い!何コレ凄い!」
「名無しちゃんテンション上がりすぎ」

放課後。学校の近くにある公園で仁王さんと焼き芋を頬張っている。
丸井さんに「美味い焼き芋屋があるんだよ」と教えてもらって今日二人で帰りに寄り道して買いに来たのだ。本当は丸井さんも一緒に来るはずだったのだが、突然現れた幸村さんに「ブン太は俺と用事があるから行けないよ」「え…(なんか用事あったけ?)…」「ほら、行くよ」「ちょ!幸村くん、マフラー引っ張ったら首絞まるから!」と連れ去られてしまったのだ。

「このお芋ほんとに美味しいねぇ」
「なんでこんなに甘くなっとんるんじゃろ」
「中が黄色じゃなくて橙色だから、普通のとは違うのかな?」
「あー…、かもせんのぅ」

もぐもぐと焼き芋を食べながらのんびりおしゃべり。焼き芋は美味しいし、仁王さんとはいつも通りで嬉しいし、思わずにニヤニヤしていると仁王さんに話しかけられた。

「名無しちゃん」
「んー?」
「ニヤニヤし過ぎ」
「………でへへ」
「でへへって」

いけないいけない。ニヤニヤし過ぎてしまったようだ。思わず変な笑いで誤魔化す。
仁王さんに多少引かれたような気もするが仕方ない。もう少し顔を引き締めなければと思いながら、焼き芋を一口。

「あー………」
「?」
「……もうすぐバレンタイじゃな」
「あー……そうだねぇ」
「名無しちゃんは今年チョコ作るん?」
「んー、たぶん作らないよ」
「えぇぇ…」
「えぇぇ?」

大袈裟に悲しそうな雰囲気を出す仁王さん。
えぇぇ?なぜ悲しそうなのかわからない。仁王さん甘いものあんまり好きじゃなかったと思うんだけど…。

「どうしたの」
「チョコ…」
「?」
「…チョコ欲しいナリ」
「……」

ちらりとこっちを見て口をとがらせている仁王さんがなぜか無性に可愛く見えて、思わず笑ってしまう。

「ぷっ」
「なんで笑うん」
「いや、可愛いなと思って」
「……ありえんし」

褒めたつもりだったのだが、仁王さん的には気にくわなかったようでムスッとして焼き芋にかじりついていた。
男の子が可愛いって言われて喜ぶわけないか。失言だったかな。と少し反省。

「……チョコ欲しい?」
「うん。去年名無しちゃんからもらえんかったもん。今年は欲しい」
「………そっか、わかった」
「え、じゃぁ……」
「うん。気が向いたら作るよ」
「名無しちゃんひどい」

ひどい、鬼、イジメっ子と連呼してくる仁王さんにアハハと笑い返す。
仁王さんにはああ言ったけど、バレンタインには何かしら作ろう。喜んでくれると良いな。よし、今度本屋さんにレシピ本買いに行こう。あ、そう言えば丸井さんスイーツ作り得意だった気が……今度聞いてみるか。などと考えつつ焼き芋を頬張った。

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