春うらら.
□第五十一話
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手を繋いで帰った日の夜。
晩御飯を食べていても、お風呂に入っていても、布団の中に入っても、仁王さんのことばかり考えてしまって、それはもう大変だった。お茶碗は割るし、ハンバーグは焦がすし、お風呂でのぼせるし、なかなか寝付けないし。抱きしめられた時のことを思い出しては一人で悶絶してばかりの夜だった。
そんなこんなで、悶絶したまま迎えた次の日。
珍しく英語の授業が自習になった。各自配られたプリントを黙々と解く。プリントを終わらせれば自由にして良いと言われ、みんな真剣に解いているようだ。
私も最初のうちは真面目に解いていたのだが、途中で集中力が切れてしまい、手が止まってしまった。頭の中を支配するのは昨日の出来事。
あー、うー、もー…。恥ずかしい。ほんと恥ずかしい。思い出しただけでまだ心臓バクバク鳴るんですけど。ぎゅってされた時の感触とか、仁王さんの匂いとか思い出して、もうほんとに恥ずかしい。何より恥ずかしいのは、もう一回仁王さんに抱きしめられたいと思っている自分がいることだ。もうなんなの自分。こんなの思うなんてどうかしてるよ。こんなことばっかり考えてたら、そのうち仁王さんのこと好きになりそうで怖い。いや、まぁ、もう今すでに好きなんだけど。あー、ダメダメ。これ以上好きになったらダメだって。今ですらこの気持ちに目を反らすので精一杯なのに、これ以上好きになったら仁王さんのこと好きだって認めないといけなくなる。そんなのダメだ。怖い。認めてしまったら今まで関係が破綻するじゃないか。そうなったら仁王さんともうおしゃべりしたり、お弁当一緒に食べたり、一緒に帰ったり、くだらない内容のメールを送り合ったり、ダラダラと長電話したり出来なくなる。そんなの嫌だ。だから早くあの事は忘れよう。仁王さんもちょっとテンションが上がって海外的なスキンシップになってしまっただけだろうし。うん、そうそう。そうにちがいn…
「名無しのさん。消しゴム落ちたよ」
「…え?あ、すみません」
「大丈夫?随分ボンヤリしてたけど」
「すみません……」
幸村さんの声に、ハッと意識が戻る。
考えに集中し過ぎて消しゴムが落ちたことにも気付かずにいたらしい。心配そうな顔の幸村さんから消しゴムを受け取ってお礼を言う。
「ありがとうございます」
「いいけど……本当に大丈夫?」
「大丈夫です。ちょっとボンヤリしてただけなので…」
「ふーん。仁王のことでも考えてたの?」
「……」
仁王、という言葉に心臓がドキリとするが、図星です、とは言えないので適当に笑って誤魔化すと、何故か幸村さんが驚いたような顔をした。
「えっ。なんですかそのリアクション」
「…(否定しないんだ)。いや、なんでもないよ」
「……」
へー。とか、ふーん。とか言いながらやたらとニヤニヤしてくる幸村さんに少しイラッとするが、気にしたら負けだと思ったので何も言わずにプリントに向き直った。