春うらら.

□第五十四話
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「というわけで、仁王さんと付き合うことになったから」
「……………、は?」

丸井さんに誘われてケーキバイキングにやってきた。二人揃って嬉々としてお皿いっぱいにケーキを取って、二人揃って嬉々としてケーキを頬張る。食べながら、そういえば丸井さんに報告してなかったな、と思いさっきの発言をしたところ予想外のリアクションが返ってきた。
一言でいうなれば、アホ面。口の端にクリームをつけて、口は半開き。そんな顔でボケッとするものだから、食べようとしてたであろう苺がポロリとフォークから落ちた。
……三秒ルールで早く食べればあの苺は救われるよね。と思い、アホ面したままの丸井さんの口にテーブルに着地した苺を放り込む。

「……あ、この苺うま…じゃなくて」
「口の端にクリームついてるよ」
「あ、サンキュー……じゃねぇって!」
「うるさっ。……もう、なんなの」
「え、マジで言ってんの?」
「何が?」
「マジで仁王と付き合ってんの?」
「あー……まぁ、うん」
「……はぁぁぁ?」

やってらんねー、とばかりにフォークを置いて、背もたれに思い切りだらんともたれ始めた。
え、何その反応。何か私悪いことした?と首をかしげていると、なぜか丸井さんに睨まれてしまった。

「……」
「………な、なに」
「お前……そういうことは早く言えよ」
「………なんで?」
「彼氏いんのに他の男とマンツーマンはマズイだろ」
「あー…、なるほど」
「なるほどって……」

呆れた顔をしてくる丸井さんに、へらりと笑い返す。
なるほど。お付き合いするとなるとそんなことにも気をつけないといけないのか。彼氏なんて初めて出来たから、考えが及ばなかったな。これからはちゃんと考えるようにしないと。うーん………それにしても……

「うーん……」
「? なんだよ」
「いや、寂しくなるなと思って」
「?」
「もう丸井さんと、こうやってケーキ食べたり出来ないかと思うとそれはそれで寂しくない?」

仁王さんとも食べ歩きはするんだけど、スウィーツ仲間の丸井さんと今までみたいに食べ歩き出来ないのってちょっと物足りなくなりそう。
なんて考えていると、丸井さんは少しビックリしように目をパチクリさせた後、再び呆れた顔をして「ばーか」と言った。

「ほんと、ばっかじゃねぇの」
「え」
「マンツーマンで行けなくなるってだけだろ」
「う、うん?」
「…だーかーらー、別に他のやつらもいれば今まで通り行けんじゃん」
「あっ、そっか」
「別に二度と行けねぇわけじゃねぇし」
「うん、そうだね。よかった!」
「よし!今度は仁王もジャッカルも誘ってハンバーガー食いに行こうぜ」
「ハンバーガー?」
「ん。ここの近くに新しくハンバーガー屋が出来たらしいんだけど、そこのチーズバーガー美味いらしいんだ」
「うわ、何それ!行きたい行きたい!」
「だろぃ?」

それから二人できゃっきゃっとハンバーガー談義をした後、ケーキバイキングを時間目一杯楽しんだ(「苺のショートマジ美味い!」「ミルクレープも最高!」「……あ、あのお客様そろそろお時間が……」「「あ、すみません…」」)。
帰り際、ちゃんと仁王に今日のこと謝っとけよ、と言われたので、わかった、と頷いて手を振って別れた。
丸井さんがちゃんと注意してくれて良かった。言われなかったら気付かなかっただろうし。丸井さんってこういうとこ気遣えるんだなぁ、意外だった。…さて、仁王さんに報告しよう。……怒られませんように。と心の中で祈りながら、ポケットから携帯を取り出した。

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