春うらら.

□第五十八話
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朝。前髪がチクチクと瞼にかかるのが嫌で、ちょっとだけ切ろうとしたら悲劇が起きた。
何がいけなかったのだろう。寝ぼけてたから?不器用だから?考えても答えなど出るわけもなく…

「どうしよう…」

パラパラと舞い散る髪の毛を眺めながら呆然と呟いた。





前髪を手で隠しながら、家を出る。本当は休みたかったが母に「バカ言ってないで早く行きなさい」と家から追い出されたのだ。
今日だけでいいから休ませて欲しかった。休んで美容室に行きたかった。切ってしまったものを戻すことは出来ないだろうが、この不格好な前髪をどうにかしてもらいたかった。
ブツブツと心の中で文句?を言いながら、重い足取りで学校に向かう。途中すれ違った人に不審そうに見られた。そりゃそうだろう。前髪を抑えて歩く女子高生とか…怪しすぎる。あぁ、登校段階でさえこうなのに学校に行ったら色んな人に不審がられるなぁ…。イヤだなぁ…でも、前髪をさらけ出すのもイヤだ。こんなon the 眉毛、小学校低学年ぶりだよ。死ぬほど似合ってない。

「名無しちゃん、おっはよー」
「ハ、ハナちゃん…!」

校門の手前で肩をポンと叩かれた。異常に驚く私に肩を叩いたハナちゃんは不思議そうだ。どうしたのと聞かれたので、なんでもないよと答えたが信じてもらえない。

「な、なんでもないってば」
「いやいや、怪しさしかないよね。その手とか」
「うっ…」
「オデコどうかしたの?」
「え、いや、別に…」
「ていっ」
「わぁ!」

いきなり手を引っ張られた。油断していたので一瞬オデコから手が離れたがすぐに隠す。が、その一瞬でハナちゃんはバッチリ見ていたようだ。

「あ、前髪切ったの?」
「……う、うん。でも切りすぎちゃって…」
「そう?似合ってたけど」
「うそだ…!」
「本当だってば。よく見せて?」
「………」

恐る恐る手を離すと、ジッとハナちゃんに見つめられて変な汗が出てくる。黙って見るのは止めて欲しい。

「短いのは似合ってるけどなんで不揃いなの?」
「い、色々あって…」
「ふーん。……名無しちゃんトイレ行こ」
「え、トイレ?」
「その前髪なんとかしてあげる」

ニコッと笑って言うハナちゃんに、ああああありがとう!大好き!と抱き付くと、お礼はジュースでいいよと返された。タダではしてくれないらしい。まぁ、この前髪から解放されるならなんだってするけど。




「ハ、ハナちゃん…化粧はいらなかったんじゃ…?」
「いいじゃん。ついでついで」
「…(ついで?)…」

女子トイレにて。ハナちゃんに残念な前髪をワックスとピンとハナちゃんの技術で可愛らしく纏めてもらい、そのまま流れで化粧までしてもらった。いつも学校ではほぼスッピンなので、見慣れない自分の姿に違和感を感じる。ハナちゃん曰わく「ほんとはもっとしたかったけど我慢した」とのこと。でも、お肌はピカピカで睫は長いし、ほっぺは仄かにピンクだし、最後につけてもらった色付きリップで唇はプルプル。これでもハナちゃん的には完璧ではないらしい。私が自分で化粧するより遥かに良く出来ているのに。やっぱり普段から化粧しておくべきだろうか。なんて、考えつつ全開のオデコにそっと触れる。

「オデコ…出してて変じゃない?」
「大丈夫だよー。似合ってる」
「………うーん」
「前髪おろしてもいいけど不揃いだからね。今日学校終わったら美容室で揃えてもらったら大丈夫じゃない?」
「……うん、そだね」

ハナちゃんに言われて納得する。今日だけオデコ全開を我慢して、明日からおろしてくればいい。on the 眉毛だけど不揃いじゃなければ、まぁ、どうにかなるだろう。ハナちゃんにありがとうとお礼を言って、二人でトイレを後にした。
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