春うらら.

□第六十一話
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体育の時に感じたあのモヤモヤの正体はどうやらヤキモチだったらしい。ハナちゃんにそれとなく相談したらニタニタ笑いながら「そりゃぁ、完全にヤキモチっしょ」と言われた。
ニタニタ笑いながら「いやぁ、名無しちゃんもヤキモチ妬くのか!可愛いねー!」とか言われて恥ずかしさで悶絶してたら「ヤキモチ妬いたって仁王くんに言ったら喜ぶと思うよ。じゃ、私部活行くから」とニタニタ笑いながら教室から出て行った。あの笑い方はいかがなものか。
手を振りながらハナちゃんを見送って、誰もいない教室でぼんやりと考える。
ヤキモチを妬いたと言って本当に仁王さんが喜ぶだろうか。面倒くさがられそうな気がする。は?ヤキモチ?鬱陶しいのぅ、みたいな。そんなの言われたら立ち直れない。あー…、ヤキモチなんて妬きたくないんだけどなぁ。だって妬いたって仕方ないし。仁王さんは中学からすでにキャーキャー言われてたみたいだし、それにキャーキャー言われてもちっとも嬉しくなさそうだ。聞こえてないのか?っていうくらいスルーしている。もうちょっと愛想良くしてもいいんじゃないかなとも思うけど、愛想良くしてたらしてたでモヤモヤが更にヒートアップするんだろうなぁ。
そもそもなんでこんなキャーキャー言われてるんだろう。イケメンだから?うん、まぁ、確かにイケメンだと思う。この前のバスケの時なんて格好良すぎてビックリした。ていうか、あのバスケ以来仁王さんが格好良く見える瞬間が多くて困る。普段は普通の仁王さんなんだけど、大人びた表情で笑う時とか、柳生くんと何か真剣な話してる時の横顔とか……あぁ、そう言えば、今朝は後ろ姿が格好良くてドキドキしたっけ。後ろ姿でドキドキとか私大丈夫だろうか。変態みたいだ。駄目だ。重傷じゃないかコレ。仁王さんのこと好き過ぎだろう私。あ、駄目だ、恥ずk

「名無しちゃん」
「わあッ!」

一人で赤面してたら仁王さんがひょっこりと現れた。どうやらもう部活は終わったらしい。まさかのご本人登場で焦ってアワアワする私をよそに隣の席に座る仁王さん。

「どうしたん、焦っとるけど」
「いや、べ、べつにっ…」
「顔真っ赤ぜよ」
「!」

は、恥ずかしい…。一人で勝手に赤面してるとか怪し過ぎる…。私もうほんとにおかしい、ヤバいよね。ワッと顔を手の平で隠す。赤面が治まるまでそうしているつもりだったが仁王さんがそんなことを許してくれるわけもなく、椅子を強制的に向かい合わせにされた。

「どうしたん?とりあえず手離しんしゃい」
「むり…」
「なんで?」
「顔赤いから」
「なんで顔赤いん?」
「………」
「なんかあったん?」
「………」

一人で仁王さんのこと考えてました!とは言えない…。変態みたいだから。どうしよう…なんとか誤魔化さないと。
チラッと指の隙間から仁王さんを覗くと眉毛をさげて心配そうな表情をしていた。顔を隠しながら話す訳にはいかないのでゆっくり顔から手を離す。

「べ、べつに何もないんだけどね。ちょっと、こう、自分の中で色々あって…」
「色々って?」
「い、色々は色々。言えない」
「なんで?」
「………じ、事情が」
「名無しちゃんが俺に隠し事する!」
「やめて。それやめて」
「じゃぁ、教えて」

言いたくなくて、ギュッと両手を膝の上で握り締める。小さい子が怒られてる時のポーズみたいだな、と思っていたら仁王さんの腕が伸びてきた。そんなに握ったら跡がつくぜよ、と言ってそっと私の手に触れてきて、その時の顔が格好良すぎて、なんでそんな優しい表情するんだと泣きそうになった。

「…名無しちゃ、…え!?涙目!?」
「仁王さんのせいだよ〜…!も〜〜…!」
「えぇ!?」
「なんでそんな格好良いの!そんな顔されたら泣きそうになるから!ていうか、最近格好良過ぎなんだって!いちいち!いちいち格好良くて困るよ!女の子たちにはキャーキャー言われるし!格好良いせいで!そのせいでなんかモヤモヤするし!もう!」
「!?」
「さっきも仁王さんのこと考えてたら赤面してたんだよ!キモイよね!ごめん!ちょっと私仁王さんのこと好き過ぎて駄目なんだよ!ごめん!」
「!?」

爆発した。鬱憤を晴らすかのごとくまくし立てた後、恥ずかしくなって膝に顔を埋める。
やってしまった…。いっぱいいっぱいになってつい言ってしまった。どうしよう、仁王さんドン引き間違いなしだろう。
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