春うらら

□第三話
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「今日は一番初めの授業ですので、みなさんの実力を見てみたいと思います。好きな文字を書いて一枚だけ提出して下さい」

実力チェックかあ…、ちょっとワクワクする。
さっきまで隣の男性で頭がいっぱいだった(チキンハート的な意味で)が出された課題が面白そうなものだったので、すぐに頭を切り替える。
書く文字は何にしようかな。やっぱり漢字二文字が書きやすいし……よし、あれにしよう。
書く文字が決まれば早い。墨汁に筆をつけ集中しながら丁寧に書く。なかなか満足のいくものが書けず、三枚目でようやく完成。

「あら、名無しのさんお上手ね」
「あ、ありがとうございます」

おっとりした先生に褒められてニヤニヤしながら自分の字を眺める。
書いた文字は「桂馬」。将棋の駒の名前だ。こう見えて将棋部に入部するほど将棋が好きで(祖父の影響で始めたらはまった)駒の中で桂馬が一番好きなのだ。

「真田くんもお上手。二人とも将棋が好きなの?若いのに渋いわねえ」

え?と思いつつ隣の男性に目を向ける。彼の前に力強く「飛車」と書かれた半紙が。
…………気まずい……めっちゃこっち見てる…鋭い眼差しで見ないでください……………。
先生はくすくす笑いながら「他の子が書き終わるまで少し待っててね」と言い残し別の生徒の所へ行ってしまった。
…うわぁ……気まずさが半端ないです。普通の男の子だったら軽い気持ちで将棋の話題をふったり出来るが隣の男性だと緊張する(チキンハート的な意味で)。
……………いや、このまま無言のほうが緊張するか。うん。思い切って……声をかけよう……だんまりのままの方が辛い。

「えええっと、将棋お好きなんですか…?」
「……ああ、なかなか面白い」
「そ、そうですか、私も好きなんです」
「そのようだな、…女子が将棋好きとは珍しい」
「祖父に教えてもらったら、はまってしまって…」
「熱中出来るものがあるのは良いことだ」

なかなかスムーズに会話が出来ているように思う。
というか、隣の男性(確か名前は真田くん)見た目は厳しいけど良い人っぽい。言葉は堅苦しいけど。

「…良く打つのか?」
「あ、はい。将棋部なので部活の日は必ず打っています」
「ほう。将棋部か」
「真田くんはよく打つんですか?」
「ああ。祖父とよく打つ。たまに友人とも打つが」
「へぇ。いいですね」

…なんか少しだけ仲良くなった感じがする。将棋仲間が増えた気分だ。
嬉しくなってニヤニヤしていると先生が「書き終えた人は半紙を提出して各自片付けに入ってください」と言ったので、乾いた半紙を提出して、道具を片付ける。

「では、先に失礼する」
「あ、はい。また」

真田くんは一足早く片付けた様で帰り際挨拶してくれた。
きびきびと教室を出ていく後ろ姿を眺める。…背筋真っ直ぐすぎる…。

最初は猛烈に怖かったけど人は見掛けによらないな。と思いながら、私も片付けをすませ、教室を出た。
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